セシル君は素直になりたい(13)
「ま、待ってよ。
もしかして、お前がボクとエッチしなかったのって……
その、ちゃんとしてなかった、からなの? それだけ?」
「それ以外の理由があるのか?」
「あるでしょ! スキじゃないとか、
性的な目で見れないとか、イロイロ……」
「スキでもない相手に欲情はしない」
ボクは全身から力が抜けるのを感じた。
「おま、お前――――真面目か!!?」
ああ……でも、そうだ。
彼は教会で青春時代を過ごして、
教会を去ってからは、ボクと人目を忍んで旅をしてきていて。
真面目なんだ。すれていないんだ。
……意気地がないわけじゃ、なかったんだ。
「は、はは……
ってか、お前、ボクのこと……スキだったの……
どこが? 自分で言うのもなんだけど……
ボク、結構、酷い性格してるよ?」
「自覚があったのか」
「……やっぱり性格悪いって思ってるんじゃん!」
「悪いとは言っていない。酷いとは思うが」
「同じでしょ! お前、ホントはやっぱりボクのことなんて――」
「だが、可愛いと思うんだ。仕方ないだろう」
「か、かわっ……」
真っ直ぐに告げられて、顔に熱が集まる。
ボクはヴィンセントの服を握り締めると、俯いた。
「そ、そりゃ、ボクは可愛いけど……
…………ホントに、スキなの。こんな、ボクのこと」
俄には信じられない。
20数年一緒にいて、
ボクのダメなところはヴィンセントが一番知っているはずだ。
ボクなら、絶対にスキになったりしない。
そんなことを思っていると、顎を持ち上げられた。
「一緒に生きたいと言った。
俺としては……あれは、一世一代の告白だったんだがな」
『愛している』
そんな囁きと共に、唇を塞がれる。
「……っ!」
優しく触れて、唇が離れると、
ボクは即座に顔を背けた。
ヴィンセントのことを、真っ直ぐ見れない。
「お……お前、趣味が悪過ぎるよ……」
掠れる声で言って、ボクは目を閉じた。
それから、ヴィンセントの方へ顔を向けて唇を突き出すようにする。
「……ほら。もっと……して、いいよ」
「ああ」
大きな手が、優しく顔を包み込み、
確かめるようにボクの頬を撫でた。
それから、再び唇が重なった。
* * *
口付けは次第に激しさを増し、
ボクはベッドに運ばれそうになると、
ストップをかけて浴室に逃げ込んだ。
体の隅々まで洗って出れば、
ヴィンセントが交代でシャワーを浴びに行く。
その間に、ボクはこの前、オシャレした服に着替えてみた。
髪を結ってから、ヴィンセントがくれた髪飾りを付けて、
ベッドにちょこんと座って、彼が戻るのを待つ。
膝の上で握り締めた手が、震えていた。
やっぱり、シャワーなんて浴びない方が良かったかもしれない。
こういうコトは、勢いが大事だったんだ。
今更気づいても遅い。
心臓がバクバクと高鳴って、顔が熱くて、火を噴きそうだ。
ヴィンセントが浴室から出てきた。
彼はズボンに上半身裸のラフな格好だった。
濡れた髪から水滴が落ちて、引き締まった体を滑り落ちる。
ボクは咄嗟に目を伏せた。
なんというか……
すっごい、色っぽいと思ってしまった。
「着替えたのか」
「うん。……ま、まあ、どうせ脱ぐんだけど、さ。
なんとなく、可愛い方がいいかなって……」
「脱がせるかどうかは、決めていないが」
ベッドがギシリと軋んだ。
ヴィンセントがボクの隣に座ったのだ。
沈黙。
長い、長い、沈黙。
ちらりとヴィンセントを見れば、
視線に気付いたのか、彼もこちらに顔を向けた。
ヴィンセントはいつもと変わらない。
ボクばかりが……ドキドキしてる。
「……なんで、お前……そんなに落ち着いてるんだよ」
「そう見えるか?
だとしたら、乗り越えてきた死線の違いだな」
手を握られた。
上がりきっていたように思う自分の体温が、限界を突破する。
血が沸騰したと思った。唇が震えた。
ヴィンセントから目を離せない。
ボクは、今まで彼の何を見てきたんだろう。
……というか、コイツ、こんなにカッコ良かったっけ?
大きくて、厳つくて、分厚い体にばかりに気を取られていたけれど、
彼はとても上品な顔立ちをしていた。
若い頃のヴィンセントは、たぶん、凄く美男子で、
これはもう絶対、めちゃくちゃモテた。
甘い美貌の片鱗が見えるんだ。
それが、たくさんの修羅場を乗り越えて、年を取り、
精悍さに磨きがかかって、更には濃厚な色気まで手に入れて……
ゆるやかに後ろになでつけた焦げ茶の髪の、
ちょっと跳ねた毛先が、なんだか凄く可愛く見えた。
笑うと浮かぶ目尻の皺が、泣きたくなるほど優しげだ。
ぼうっとヴィンセントを見つめていると、
彼はボクの顔を覗き込むようにした。
吐息が鼻先をかすめ、それから――
「んっ……」
触れるだけのキス。
でも、その瞬間、雷に打たれたような痺れが、
足先から脳天に突き抜けた。
視界がチカチカと点滅する。呼吸が浅くなる。
「……もっと。もっとしてよ、ヴィンセント」
瞼を閉じて上を向けば、ベッドに押し倒された。
節張った手が頬を撫でて、再び唇を塞がれる。
今度は貪るようなキスだった。
「ん、んん、んむぅ……」
唇を割って、ザラついた舌が侵入してきて、
ボクは逞しい背に手を伸ばした。
「ヴィンセン……ト……」
口中を掻き回す太い舌に舌を絡ませれば、
顔に触れていた手が、首筋を滑り、
やがてシャツのボタンに移動した。
1つ、1つ、ボタンが外されていく。
しかし、その手は途中で止まってしまった。
コルセットが邪魔だったんだ。
ボクはもっと脱ぎやすい服にしておけば良かったと、
心底後悔した。
「ごめん。すぐ、外すから……」
「いや、そのままでいい」
「え……?」
ヴィンセントの手がボクの背に回り、
コルセットの紐を緩める。
それから、シャツを引っ張り上げると、
彼は引き続きボタンを外していった。
はだけたシャツの間から覗く胸に、熱い手が触れる。
「ひゃっ……」
乳輪の縁を指先で何度かなぞられるだけで、
ふにゃっとしていた中央の突起が充血していく。
「……本当に、感じやすいな」
ヴィンセントは小さく笑むと、
胸の中心に吸い付いてきた。