可愛がられるのも世話焼きのうち?(2)
「紅茶、お口に合いませんか?」
唐突に立ち上がったオレに、ユリアが不安げに瞳を揺らす。
「そうじゃねぇ。紅茶はめちゃくちゃ美味い。 じゃなくてさ……オレ、朝から何もしてねぇんだよ。世話係なのに」
綺麗な服を着て、美味いもん食って、腹ごなしに散歩して、また美味いもん食って。 給料分働くどころの話ではない。むしろ天引きされても文句が言えないレベルだ。
「こうして一緒にお茶を楽しむ、じゃ仕事になりません?」
「楽しいから、より仕事って感じがしねぇ。 お前がムカつく甘ったれな坊ちゃんなら、まだ仕事だって考えられたけど」
ユリアがきょとんとする。
「楽しい……」
それから、誰にともなく呟くと頬を染めてもじもじした。 オレは必死で、世話係の仕事を探して思考を巡らせる。
身支度の手伝いは不要。 繕いものや、皿洗い、ゴミ捨て等の屋敷を維持する仕事はもう人手が足りている。
じゃあ、オレに出来ることってなんだ?
ふと、ユリアの指が視界に入った。 大きい手だった。指はスラリとしているが、太くて長い。 綺麗なアーモンド型の爪は短く切りそろえられている。
例えば、そう……エロいこととか?
――って、ダメだダメだダメだ!! オレは慌てて頭を振った。
ただの前職のクセだ。 断じて、ちょっとも、やましい気持ちなんて持ってない。いや、マジで。
「メイドにも相談してみたんだけど、間に合ってるって言われちまってさ。 でも、このまま何もしないで過ごすのは、怖いんだ。 一通りのことは出来るよ。出来ないことはすぐ覚える。 だから、なんかオレに仕事をくれないか」
「そうですね……ご存じの通り、ハウスキーパーは間に合ってますし、 僕の世話と言っても……」
ふと、ユリアが言葉を途切れさせる。 何か思いついたのだろう。オレはすかさず身を乗り出した。
「何かあるんだな? 言ってみろよ」
「その……笑わないで、くださいね?」
「もちろん」
ユリアが視線を彷徨わせる。 それから、ポツリと呟いた。
「……ギュッて、してもいいですか」