セシル君は素直になりたい(4)
「……っ!」
ヴィンセントが目を小さく見開く。
「お前、何して……」
一瞬の後、ヴィンセントがボクを押しやる。
ボクは、自分の唇を手の甲で拭うと、頬を緩めた。
ざまーみろ。
驚くヴィンセントの様子に、胸がスッとする。
「お前がちゅうしたいって顔してたから」
ボクは言った。
口元を片手で覆ったヴィンセントは、
まじまじとボクを見下ろしてから顔を背ける。
「そんなこと……」
その顔は見たことないくらいに真っ赤だ。
……あれ? あれれれれ?
もしかして……ヴィンセント、照れてる?
ってか、こういうことに弱い……いや、慣れてない、のか?
ボクは笑みを深くした。
彼が言ったんじゃないか――自慰すら、禁止されてたって。
「……ヴィンセント。もう一回、キスしてあげようか?」
「なに……?」
驚いてる驚いてる。
ボクはいつになく楽しくなった。
さっきまでの情けなさとか、悔しさとか、全部綺麗さっぱり霧散する。
ボクはヴィンセントに一歩近付いた。
彼はあたふたとボクから退く。
「バカな真似はよせ」
「遠慮しなくてもいいじゃん。ボクとヴィンセントの仲でしょ♪
こーんな可愛い子とちゅうなんて、なかなか出来ないよ?」
「やめろ」
グッと肩を掴まれて、押しやられる。
ボクは今にも泣きそうな表情で鼻を啜り上げた。
「そっか。ヴィンセントは、ボクとキスしたくないんだね。
ボクが男だから……気持ち悪い、から」
「そうじゃない。そんな風に思ったことは一度もない」
ヴィンセントは即座に否定してくれた。
いつもなら、『嘘泣きは止めろ』ってほっぺたを抓んでくるのに、
だいぶ動揺しているみたいだ。
「なら、キスしても……いい?」
ヴィンセントの頬を両手で包み込み、無理やりこちらを向かせる。
「……っ」
あは。こんなに動揺してるヴィンセントなんて、
20年一緒にいて見たことないよ。
ボクを制止する声には覇気がないし、振り払おうとする腕にも力がない。
暴走したユリアを倒したヤツとは全然思えない。
「ほ~ら、ちゅ~~~~~ッ♪」
「ん、んぶっ!」
ヴィンセントにも弱みってあったんだなあ。
そう、しみじみと思うと同時に、
新しいオモチャを手に入れた時みたいに、ワクワクした。
けれど、そんな爽快な気分も一瞬だった。
「ンむぅっ!?」
パニックに陥る。……唇を割って、太い舌が侵入してきたのだ。
「ん、んん、んむっ、ふ、んくっ……」
いつの間にかヴィンセントの手がボクの後頭部に回っていた。
顎まで掴まれ、身動きできないのをいいことに、
ヴィンセントのザラついた舌が、
ボクの口の中をグチュグチュとかき混ぜる。
「んー! んっ! んんッッ!」
暴れようにも、腕は頑強でビクともしなかった。
なに。なんで。
え? なんでボクがキスされてるんだ?
「ふ、ぁっ……ゃ、ヴィンセント……くるしっ……」