忍び寄る「黒」と赤い過去(13)
「そうじゃないんです。
なんとなく……バンさん、焦ってる気がして」
「焦ってる?」
「ええ。前も言ったと思うんですけど、
僕はあなたと一緒にいられるだけで十分幸せなんですよ。
繋がることばかりが、愛だとは思わないし……
あっ、したくないって訳じゃないんですよ!
ただ、焦ったり、無理なタイミングでするのも違うかなって」
「……そんな、タイミングとか考えてたら、
出来るもんも出来なくなるぞ。こういうのは勢いっつーか」
ユリアはオレの尻を撫でながら、小さく首を振った。
「僕はゆっくりじっくりバンさんのこと愛したいんです。
だって、僕らにとって初めての……その、エッチじゃないですか。
それを目的にはしたくないんですよ」
オレは目を瞬いた。
『初めて』
その発想は全くなかった。
「エッチなことはしたいけど、
それよりも、一緒にいろんなことをして楽しみたいというか……
愛し合いたいんです。……って、僕、変なこと言ってます?」
「……いや」
オレはぎこちなく笑うと、ユリアから手を離した。
それから、目を閉じて彼の胸に額を押し付ける。
……ユリアに抱かれたいと思ったのは、どうしてだろう。
好きだから。
愛しているから。だから、触れたい。
それはまあ、当たり前の感情だ。
でも、少し考えれば、他の愛し方や愛され方が星の数ほどあると知っている。
焦ってる、か。
オレは内心で溜息をついた。
ユリアを怖がっていないと伝えるために、
オレはセックスに拘っていたのかもしれない。
ユリアは、オレとの『初めて』を大切に考えてくれているというのに。
「大好きですよ、バンさん」
オレの前髪を掻き上げて、ユリアが額にキスを落とす。
それをくすぐったく思いながら、オレは小さく頷いた。
「オレも大好きだよ。いやーー愛してる」
「……っ」
感極まったようにギュッと抱きしめられる。
ユリアのぬくもりがダイレクトに伝わってきた。
コイツは全身で愛を叫んでくれる。
ああ、好きだなあと思った。眩しいなあと思った。
オレは顔を持ち上げてユリアの瞳を見つめる。
それから触れるだけのキスを何度も交わすと、
オレたちは穏やかな眠りについた。