忍び寄る「黒」と赤い過去(3)
「……お前にしたことと同じ事だよ!」
束の間の沈黙の後、セシルは叫ぶように言うと、
早口で続けた。
「まさか、眠らせただけであんなことになるなんて思ってなかったんだ!
そもそも、ユリアは……ヴァンパイアでしょ!?
なんで、あんな……人狼だなんて聞いてない……っ!」
「人狼を目覚めさせたのか!?」
「そうだよ……!
早く止めてよ! ヴィンセント、本気だった。このままじゃ……っ!」
「どうする……どうやって止める……」
思案を巡らせ、ひとりごちる。
「……は?」
すると、セシルが歩みを止めてこちらを振り返った。
「ま、待てよ! どういうこと?」
「アイツは、オレにも止められない」
首を振ったオレの胸ぐらを、セシルはすがるように掴んだ。
「そんなバカな。
お前、ユリアの恋人なんでしょ!?」
「アイツは……あの人狼は、ユリアだけどユリアじゃない。
人狼化した時には、アイツの意識は消えちまう。
獣には、オレの言葉なんて届かないんだよ」
「で、でもさ、お前はこの屋敷でユリアと暮らしてるわけじゃん。
なら、獣になった時はどう対処してるわけ?
その感じ、お前はユリアが人狼だってことは知ってたんでしょ?」
「……そうだな。人狼化しそうな時期は、オレは街の方に避難してる。
ケガでもしたら、ユリアが傷つくから」
「じゃ、じゃあ、逃げるしかないってこと?
だけど、ユリアはずっと人狼のままってわけじゃない。
それなら……」
「いつもは、満月が沈むと元に戻るんだ。
だけど月の満ち欠けと関係なく人狼化した場合は……
……どうしたら元に戻るのか、分からない」
「ウソ……」
セシルの呟きがポツリと落ちる。
気が付けば、先ほどまでの激しい音は聞こえなくなっていた。
「ヴィンセント……」
彼は項垂れると、力なくオレから手を離した。
輝く指輪が目に入ったのは、その時だ。
オレは思わずセシルの腕を掴んでいた。
「その指輪……! そうだ、それを使えば!」
「そんなの、出来たらとっくにやってる……
この指輪はちゃんと見せないと効果が出ないんだ……」
「つまり、その指輪を獣に見せればなんとかなるってことだよな?」
「そうかもしれないけど、そんなの無理だって――」
「無理じゃない」
オレはセシルを真っ直ぐ見つめた。
「オレが隙を作る」