人狼坊ちゃんの世話係

パーティナイト(4)

「なっ、なっ、なっ……!」

 セシルが手を震わせる。
 ついで、今にも爪で引っ掻いてきそうな形相で、彼はオレを睨めつけてきた。

「勝負だな、セシル」

 苦笑交じりの低い声が落ちたのは、その時だ。
 優しく目を細めるヴィンセントに、セシルは眉根を吊り上げた。

「……勝負? お前とボクとじゃ勝負にならないから」

 そう告げると、彼は先ほどよりも入念に2枚のカードをシャッフルした。
 もちろん、さっきと同じく顔を背けて相方に手札を押し付ける。

「……ドウゾ」

「それじゃあ――」

 ひょいと悩むことなく、ヴィンセントが1枚を取る。
 それからカードを場に放った。

「上がりだ」

「……お前、今の絶対どっちか分かってただろ」

「じゃあやり直すか?」

「やり直す!!」

 続いて、2回、3回と先程のことを繰り返したものの、
 結果はセシルの惨敗。

 確かに、まったく勝負にならなかった。

「くっ……!」

「もう一度やり直すか?」

「……もういい!」

 セシルがぴたんと場にカードを捨てた。
 そんな彼にすかさずヴィンセントが、
 ケーキを一欠片切り分けると、差し出す。

「んっ……」

 反射的にパク付いてしまったのか、
 セシルはばつが悪そうに視線を彷徨わせた。
 やがて一言、ポツリと言った。

「……おいしい。
 ――じゃなくてさっ……!」

 セシルがテーブルを立ち上がる。
 その瞬間、ユリアがフッと噴き出した。

「ふ、ふふ、セシル……っ、君……」

「あ……」

「ヴィンセントさんと、凄く仲が良いんですね」

 目に浮かんだ涙を指先で拭って、ユリアが破顔する。
 セシルは居心地悪そうに、目線を外した。

「……仲なんて、よくないです。
 というか、ボク……とても、はしたないことを……
 呆れましたよね」

「友達がはしゃいで嫌な人なんていませんよ。
 とても楽しいです。
 セシルさえ良ければ、もう少し遊びましょう」

「は、はい……! では、次は……」

 いつもはシンと静まり返った屋敷に、セシルの明るい声が響く。
 オレは楽しげにゲームに興じるユリアを眺めて、
 知れず微笑みを浮かべていた。

 セシルへの不信感は、杞憂だったのかもしれない。

* * *

 大いに盛り上がった、お茶会が終わった後、
 オレはセシルたちを客室まで案内した。

「何かご入り用があれば、なんなりとお申し付けください」

「ちょっと待ってよ」

「はい、何か?」

「ユリアってさ……凄く優しくて、真面目だよね」

「そうですね。坊ちゃんはとても真っ直ぐでいらっしゃいます」

「悪いことしちゃったら、凄く自分のこと責めちゃいそう」

「……どういう意味でしょう?」

 ゆっくりと問いを口にする。
 すると彼は、コチラに向けて左手を突き出してきた。

 人さし指にはまった指輪がキラリと煌めく。
 その瞬間――すうっと体から力が抜けるのを感じた。

 なんだ……? オレは、今、何をされた?
 床に崩れ落ちる直前、がっしりとした腕に抱き支えられた。
 ヴィンセントだろうか。

「お前は、ボクのベッドでゆっくりおやすみ」

 セシルの声が、頭の中に響く。

「その間に、ユリアの相手はボクがしておくからさ」

 急激に意識が遠ざかった。

「ぐ……待、て……」

 伸ばしたつもりの手は、ピクリとも持ち上げられない。

 底なしの沼にズブズブと埋まっていくように、
 オレは夢の世界へと落ちていった。

-47p-