人狼坊ちゃんの世話係

パーティナイト(2)

 ピクリとも表情を動かさないヴィンセントとは対照的に、
 セシルは嘘が得意ではないらしい。

「じ、じゃあ、ゲームを始めましょう!」

 みんなが初めのカードを捨て終わると、
 ぎこちない笑みを浮かべて、セシルが手札をユリアに向けた。

「どうぞ、ユリアさん」

「はい。では……これを」

 ユリアは間髪入れずに1枚を引く。

「良かった。当たりだ」

 ニコリと笑うと、彼は1組のペアを場に捨てる。

「運がいいんですね」

「ええ、ラッキーでした」

 笑みを引き攣らせたセシルに嫌味なく答えると、
 ユリアは続いてオレに手札を差し出す。

「はい、バンさんの番ですよ」

「ああ」

 1枚を引く。残念ながら、ペアを作ることは出来なかった。
 次はヴィンセントがオレから1枚を引き、その彼からセシルが引き……
 グルグルと互いにカードを引いていくと、
 あっという間にユリアの手札がなくなった。

「ふふ、ラスト1枚です」

「早いな」

 押し黙っていたヴィンセントが、楽しげに口の端を持ち上げる。
 その横で、セシルはプルプルと震えていた。

 ……ジョーカーは一度も彼の元から動いていない。

「ら、ラス1がなかなか合わないんですよね?!」

 そう言いながら、セシルが手の内でカードを思い切りシャッフルする。
 それから、彼は1枚だけ高さを変えてユリアに差し出した。

 ユリアはどう動くだろう?

 セシルの手札はあと6枚。

「それじゃあ、これで」

 ユリアはやはり臆することなく、端から1枚を引いた。そして……

「わっ、やったあ! おしまいです!」

 満面の笑みで、場に2枚のカードを捨てた。

「嘘……」

 愕然としたのは、セシルだけじゃない。
 オレも、喜ぶユリアをまじまじと見つめた。

 彼は全てのターンでペアを作り、ラスト1枚すらまごつくことはなかった。
 これを驚異的と言わずして、何と言うだろう?

『次はお前の番だよ、使用人』

 ハッと顔を上げると、
 ギリギリとセシルが歯軋りしながらオレに手札を差し出していた。

「ああ、失礼しました」

 なんでわざわざ念話……と思いつつ、
 素直にカードを引こうとしたオレは手を止める。

 真ん中の頭一個高く持たれたカードに指を向ければ、
 セシルの口の端が持ち上がった。
 つい、と横にズラせば、鼻に皺を寄せたセシルから
 ギリギリと歯軋りする音が聞こえてくる。

「……」

 ……これは賭け事ではない。ゲームだ。
 使用人が主人の友人に勝つのは御法度だろう。

 オレは一つ溜息を落とすと、悩んだ風を装ってジョーカーを引き受けた。

「……!」

 セシルの目がキラリと輝く。

「はっ、ははっ! バーカ! ジョーカー引いてやんの!!」

 にんまりと笑ってセシルが指を突きつけてくる。
 次の瞬間、ユリアの視線に気付いたのか彼はハッと口元をカードで覆った。

「す、すみません、ボク……あなたの恋人に酷いことを……!」

「謝らないでください。ゲーム中なんです、盛り上がって悪いコトはないですよ」

 フォローを入れる。するとユリアも頷いた。

「バンさんもこう言っていますし、遠慮しないでセシル」

「はい……」

 しおらしくセシルが席に着く。
 オレはヴィンセントに手札を向けた。

「どうぞ。お好きなカードを」

 ……それからも緊張した空気の中、
 順調にジョーカーはオレの下に居座り続けた。
 問題が起こったのは、オレのターン――カード枚数はオレが2、ヴィンセントが1、セシルが2枚の時だった。

 ヴィンセントが、オレの手からジョーカーを引き抜いたのだ。

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