人狼坊ちゃんの世話係

来訪者(2)

 きょとんとするユリアに、セシルと自己紹介した少年は、
 一通の手紙を差し出した。

「なんて?」

 オレはユリアに耳打ちする。

 ハルの紹介状があるということは、少なくとも敵ではないのだろう。
 しかし、すぐに警戒を解くことはできない。

 森一帯には結界が張ってあり、
 招かれざる客は森を越えることすら出来ないらしいが、
 彼らはそれをモノともせず屋敷にやって来た。
(先日の教会の奴らは、その結界を破って来たのだそうだ)

「……確かに、叔父からの手紙ですね」

「それのお陰で、森を抜けることができました」

 ユリアは手紙に目を走らせると、改めて少年を見た。

「叔父とは、旅先で知り合ったんですか?」

「はい。エミールの街って知ってます?
 そこでたまたま出会って、一緒に観光したんですよ。それで意気投合して」

 エミールと言えば、この森から東に馬で2月ほどの場所にあるワインの名産地だ。
 美食の町としても知られていて、
 各地を代表するレストランが集まっていると話を聞いたことがある。

 ……にしても、ハルが観光を楽しむ姿も、彼らと意気投合する姿も想像できない。

「別れ際に、海の方へ行くなら甥の屋敷に寄って欲しいって。
 あまり友人のいない子だから、友達になってくれると嬉しいと言われたんです。
 でも……」

 セシルがユリアを見つめる。
 続いて、親しげな表情を一変させて、ニヤリと口の端を持ち上げた。

「恋人に立候補しちゃおうかな」

「え?」

「一目惚れしちゃったんですよ。
 だって、ユリアさん、すっごいボクの好みなんだもの」

 ずい、と距離を詰めたセシルに、ユリアが目を瞬かせる。

「えっ……え! えぇっ……!?」

「おい、セシル。初対面の相手を困らせるな」

 ヴィンセントと名乗った男が呆れたように言うが、
 それを無視して、セシルはさらにユリアの顔を覗き込んだ。

 指先でユリアの顎を持ち上げて、唇が触れるほど顔を寄せる。

「困ってる表情も素敵ですね。ユリアさん」

「あ、あの、セシルさん……近っ……」

「セシル<さん>、なんて、他人行儀は止めてよ。
 ね、セシルって呼んで」

「セシルさ、せっ、セシル! 僕は……っ」

 ユリアがオレの方を見る。それから顔を真っ赤にして、あたふたし始めた。
 何か言いたいことがあるのか、口を開いたり閉じたりを繰り返し、
 必死でセシルの小さな体を押しとどめる。

 ふいにメイドが客間に入ってきた。どうやら客室の用意が整ったらしい。
 立場上、見守っていたオレは、二人の間に割って入った。

「失礼。客室の用意が整いましたので、案内します」

「……なに、お前。使用人は引っ込んでてよ」

 先程の愛らしい雰囲気を一変させて、セシルはオレに鋭い眼差しを向けてきた。
 ユリアはと言えば、まだ一生懸命に何か言葉を探しているらしく、
 セシルの豹変には気付いていない。

「長旅だったとお見受けします。ゆっくりお休みになられては?」

「今、ボクはユリアさんと大切な話してるんだけど? 邪魔しないで」

「あのっ……!」

 ユリアが思い切ったように声を上げたのは、その時だ。

「ぼ、僕には、そのっ、恋人がいましてっ……
 かっ、彼、なんですけど……!」

 そう言って、ユリアはオレの腕を引いた。

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