悪夢残滓(4)
無力感と共に、オレは自室に戻った。
扉を閉める。見下ろした指先は、まだ震えている。
オレは拳を壁に打ち付けた。
「しっかりしろよ。
なんで……なんでッ……!」
握り締めた拳の間から、血が滴り落ちる。
情けなかった。悔しかった。
ユリアはオレを信じて話してくれたのに。
「なんで、こんな……怖いだなんて思うんだよ!」
愛してるのに。
愛してるのに。助けたいのに。
視界が涙で滲んだ。
バカ野郎。なんでオレが泣いてんだ。
泣きたいのはユリアの方だ。
バラの棘一つで大騒ぎしていたアイツが、
自分の意思と関係なく誰かを傷つけることをどんな風に思っているのかなんて、
想像に難くない。
「しっかりしろよ。頼むよ。震えんじゃねぇよ」
そう念じれば念じるほど、あの夜の記憶が鮮明に目の前に蘇る。
バラバラにされた。
身体を、尊厳を、徹底的に破壊された。冷酷な獣は笑いながらオレを――
「くそ……!」
覚悟を決めて踏み込んだんだ。
ユリアを助けたくて、踏み込んだんだ。
なのに、どうして……抱きしめ返すことすら、出来なかったんだよ。
「ユリア……」
まだ、震えは止まらない。
獣の声が、耳にこびりついている。
「ごめん。ごめんな……」
オレは腕を目元に押し付けて奥歯を噛みしめた。
……手の甲の傷が瞬く間に治ったことなど、気付きもしないまま。
それから数日して、オレは屋敷を出た。
外界で、ユリアの力を抑える方法を探すために。
……これが今できる最善だと、自分に言い聞かせて。