人狼坊ちゃんの世話係

螺旋回廊(5)

* * *

 オレは身支度を調えると、
 シロがユリアに変わるのを待った。

「俺の方が速く移動できる」とシロは言い張ったが、
 辻褄が合わなくなるのを恐れて、1日だけ待つように頼んだ。

「ユリア。起きろ」

「ん……まだ、暗いですよ……?」

「教会の奴らが近くまで来てる。
 もうここにはいられない」

「えっ……!?」

 勢い良く身体を起こしたユリアに、
 オレは着替えを押し付けた。

「着替えろ。
 無用な戦いは避けたいだろ?」

 正確には、罠の近くでシロが見たという足跡の主が何者かは知れない。
 ただ、罠に気付くような相手ならば、教会の手の者である可能性は高いだろう。

「どうしてそんなこと分かったんですか?」

 着替えを済ませると、ユリアが問うた。

「誰かが傍に来たら分かるように小屋の周りに罠張ってたんだよ。
 で、毎日、お前が起きる前に確認してたんだけど……
 今日、人影を見たんだ」

 事実とは異なったが緊急性は変わらない。
 ユリアは不安げに瞳を揺らすと、頷いた。

「……そうだったんですね」

「準備は出来たな?」

「ちょっとだけ待っててください」

 ユリアは何か想いだしたように急いでキッチンのテーブルに向かうと、
 ごそごそと自分のリュックを漁った。
 それから、取り出した一掴みの金貨をテーブルに置くと、
 オレのところに走って戻ってきた。

「お待たせしました」

「それじゃ、行くぞ」

「……ありがとう」

 玄関を出る直前、ユリアは小屋の中をちらりと振り返ると、
 そう言った。




 空が白む頃、
 オレたちは腰まである草を掻き分けて、道なき道を進んだ。    山から山へ移動するのは命がけだ。
 急に目の前に崖が現れるかもしれないし、
 一日、食べ物にありつけるかどうかも分からない。

 もしもの時のために干し肉を用意していて正解だったが、
 これだっていつまで保つか分からないのだ。

「ユリア。大丈夫か?」

「はい……」

 ただでさえ擦り切れていたズボンは、すぐにズタズタになった。
 加えてそれは夜露にぐっしょりと濡れて、足にまとわりついてくる。

「っ……!!」

 ふいに、後ろからユリアの小さな息を飲む音が聞こえて、
 オレは振り返った。

「どうした?」

「すみません、靴が壊れちゃったみたいです」

「マジか」

 近寄って足元を確認したが、鬱蒼と茂った草のせいでちゃんと見えない。

 オレはリュックを前に移動すると、
 ユリアに背を向けて、少しだけ屈んだ。

「ほら。乗れ」

「え……
 いっ、いやいや、さすがにそれはっ……!」

「ずっと背負うわけじゃねぇ。
 靴の様子見れる場所までだよ。早くしろっつの」

 躊躇うユリアを無理やり背負う。
 一瞬、シロのことが頭を過ったが慌てて頭を振って追いやった。

「ごめんね、バンさん。重いよね……」

「気にすんな。
 ってか、オレはお前の世話係なんだから、謝る必要なんてねぇよ」

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