人狼坊ちゃんの世話係

螺旋回廊(4)

 オレの唇を、シロのザラついた舌が舐める。
 半開きにすると、それは中へと深く侵入してきて、口中を這い回った。

「ん、んむっ、んん……」

 紅の瞳に射られ、身体の芯に火が灯る。
 オレは陶然としながらユリアを思った。

 拗れたままの彼を、受け入れる。
 ユリアの嘘の上に新しい幸せを描く。

 それが……試して、試して、結局、導き出した答えだった。

 ユリアの両親は病気で死んだ。
 オレたちは旅先のメティスで祭りを楽しんだ。
 今は悠々自適な山小屋生活を送っている。
 ユリアは誰も傷付けていないし、オレとケンカもしていない。

 彼が家族に愛されていた記憶はなくなるけれど、
 その寂しさは、オレが埋めれば良い。
 そして、これからは彼を狙う『敵』を徹底的に排除し、穏やかな生活を心掛ける。

 ほら。
 こうすれば、万事解決――

「んぐっ……!」

 そんなことを考えていると、まだ閉じた後孔に長大な灼熱が突き立てられた。

「て、めっ……少しは解してからっ……」

「……やっと俺を見た」

 生理的に散った涙を舐め取ってから、
 シロはオレの腰を高く抱え上げ、動き始める。

「ぅあっ、ぁ……あっ、あっ、は、ぅあっ……っ」

「……やる気がないのは、口だけだったようだな」

「はっ……何、言って……っ」

「奥を突く度に、中が嬉しそうにうねる……
 相変わらず、素直じゃないやつめ」

「あ、ぁっ、く、そ……激しくするな、っつの……
 ベッド、壊れるだろーが……っ」

「フン。好きに啼いていろ」

 オレはシロの腰に足を絡みつける。
 それから胸元の毛を引っ張ると、顔を寄せた。

「止めろっつってんだよ……
 ってか、本当、お前って……出し入れするしか脳がねえな……
 チャームに頼り過ぎなんじゃねぇか……?」

 ピクリとシロの耳が揺れる。

「オレのこと、好きだっつーなら……
 しっかり満足させろよ」

 ユリアの敵を完全に排除することが不可能だとしても、
 コイツが……シロが、いる。
 コイツがユリアを守ってくれる。

「……満足させてくれ」

 お前が、ユリアの記憶を持ってる限り、
 ユリアの身体を守ってくれる限り、
 オレはウソをつく。つき続けるから。

「誰に物を言っている」

 繋がったまま、身体を起こされる。

 向き合い、抱きしめ合うような体勢で、
 オレたちは睨み合った。

「っつって、俺の方が経験豊富だからな」

 肩に手を置き、自ら身体を上下に揺すれば、
 我が物顔で中を蹂躙していた楔が、ビクリと震えた。

「……っ」

 オレはたぶん、ユリアの嘘に乗っかることが怖かった。
 いつかオレたちの関係も嘘になりそうで。
 ……いつかオレも切り捨てられる気がして。

 要するに、ユリアの人生の通過点になるのが怖かったわけだ。
 思い上がりも甚だしいと思う。

「精々、利用させてくれよ。シロ」

 浅い呼吸を繰り返して、オレは笑った。
 シロは苛立たしげに目を細めて、
 オレの左の肩口に噛みついてきた。

「あぐっ……」

 牙が皮膚に突き刺さる。
 鮮烈な、火傷のような痛みに顔が歪む。

「なに、噛んでんだよっ……」

「明日には綺麗サッパリ消えている。
 俺とのことも、何もかもな」

「それがさ……てめぇが毎晩噛むから、痕になってんだわ……」

 言うと、シロは目を見開いた。
 それからクッと喉奥で笑う。

「……そうか」

「嬉しそうにすんじゃねえ……」

「嬉しいのだから仕方ない」

 ……オレたちは、たぶん似ている。
 何かを残そうと必死になっている。

「単純なヤツ……
 御しやすいケダモノで……本当、良かったわ」

 永遠の中で、笑顔が磨り切れるまで。
 ユリアに優しい夢を見せることが出来たのなら、
 それだけで、オレには彼に仕えた価値がある。
 そう、思った。

* * *

 寝入るバンを置いて、俺は小屋の外へ出た。
 ヤツと共に小屋周りに張り巡らせた罠の確認をするためだ。

「異常はなし、か」

 罠は半径5キロほどのところを起点に、転々と配置している。
 半年ほど経ったが、幸い誰かが接触するけはいはない。
 心配と言えば、小屋の所有者だが……

 俺は何個目かの罠の前で、ふと足を止めた。
 異常は無い。しかし、鼻腔をくすぐる香りに、
 明らかにいつもとは違うものが混じっている。

「……足跡」

 罠の向こう側に、うっすらと人の足跡が見えた。
 それは仕掛けの直前で踵を返していた。……罠に気付いている行動だ。

 もしかしたら今日の昼間、別のルートからバンたちの様子を見られたかもしれない。

「……アイツの記憶が見えないというのも、不便なものだな」

 誰にともなく吐き捨てると、
 俺はすぐさま小屋に戻り、間抜け顔で寝入るバンを叩き起こした。

「起きろ、バン。山での生活も、今夜でおしまいだ」

 一見、変化がなくとも、時は進んでいる。

 どれほど願おうと、
 誰も、変わることを止められはしない。

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