虚飾の檻(8)
「は、ぁ……本当だ……水ん中って、変な感じだな」
オレは浅い呼吸を繰り返しながら、
下腹部の熱に意識を奪われる。
扱く度に、手指の間に忍び込んだ水が滑らかな快感を生み出し、
何とも言えない心地良さだ。
「したことなかった?」
「ねえな。水の中ってのは」
娼館のあった街の川は、下水も垂れ流しだったから水浴びなんて自殺行為だったし、
傭兵時代も、泥水のような川しか見たことはない。
水の中でなんて発想もなかった。
「なら、バンさんの初めて……貰っちゃおう」
ユリアがオレの脇の下に手を入れる。
浮力のせいで、オレの体は易々と持ち上げられた。
「挿れていい?」
首筋に口付けながらユリアが問う。
「ダメって言ったら、我慢できんのか?」
「もちろん……無理です」
オレは苦笑と共に、彼の腰に足を絡めた。
熱い先端が探るように尻の間を滑る。
やがて……
「ん、くっ……」
ゴポゴポと音を立てて、オレは熱く貫かれた。
ユリアはゆっくり腰を引き、少し性急に最奥を突き上げてくる。
中に水が入り込んできては出て行って、
おかしな気持ちになってきた。
「うぁ……なんか、変な感じ……
腹ん中、水入ってきて……っ」
鮮烈な快感とは違う心地良さ……
ユリアの首に手を回し、密着すると、
切なげな吐息が耳朶に触れた。
「バンさん、今日はなんだか……凄く色っぽいね」
抽送が一度止まり、顎を持ち上げられる。
「それに、中も……たくさんキュンキュンしてる気がする」
次いで、貪るように唇を奪われた。
それと同時に、激しい突き上げが始まる。
「は……ぁ、んっ、んぅっ、ぅ……!」
口中に差し入れられた舌は、呼吸を奪うようにうごめき、オレはされるがままになった。
「締め付け凄いよ、バンさん……痛いくらいだ……」
激しく水が揺れる。飛沫が立つ。
「ん、ふぁ、ちょっ……も、少しゆっくり……っ」
「ごめんなさい、気持ちよくて……
でも、腰止まらないよ……」
「あっ……は、ぁっ……」
快感のひとつも取りこぼさないよう全身に広がった意識が、甘く痺れる。
「やっぱり、今日のバンさん……いつもより感じやすくなってる。
水の中、そんなにいいの?」
「たまには……いいかも、な……」
反り立つ屹立が、ユリアの下腹部に擦れた。
じわじわと先端に先走りが滲むのを感じる頃、
粘膜越しに、ユリアの脈動を感じる。
「バンさん、好きだよ」
「ん……オレも……愛してる……」
口付けの合間に、オレたちは何度も囁き合った。
祈るように。乞うように。
* * *
荒くなった呼吸が整う頃、オレたちは名残惜しみつつ身体を離した。
結局、着ていた服は洗濯して近くの木に干した。
ユリアはオレの着替えの他にちゃっかり自分のも持ってきていたから、笑ってしまった。
オレたちは、ひとまずズボンだけ履いて岩場に腰を下ろした。
気がつけば、陽は高く昇り、すっかり朝食を取り損ねている。
「朝からなんだか自堕落なことしちゃいましたね」
「そうだな」
岩場に腰掛けたユリアの足の間にオレは座っていた。
彼はオレを軽く抱きしめて、余韻を味わうように空を見上げている。
「……なあ、ユリア」
オレは彼を振り返らずに口を開いた。
「はい?」
「飯食ったら――痛いことするか」
「い、痛い、こと……ですか?」
「そう」
ユリアの胸に背を預ける。
彼の手に手を重ねて、さわさわと撫でていると、
ユリアは声を弾ませた。
「ば、バンさんのたっての願いなら、僕は、そのっ……がんばります……!」
「よしよし、偉い偉い」
オレはユリアの手を握りしめて、指を絡めるようにする。
キツく握りしめると、微かに自分の手が震えていることに気付いた。
――それからオレたちは小屋に戻ると、いつも通りの昼食をとった。
他愛もない話に花を咲かせつつ、食事の後片付けを終えると、
オレはユリアを呼に、並んでベッドに腰掛けた。
「それで、痛いコトって何するんですか?」
少し緊張気味に、けれど、何処かドキドキしながらユリアが問う。
オレはその純朴な様子に微笑みながら、ひとつ深呼吸した。
「そうだな、まずは……」
ユリアを見上げる。
オレの様子が想像していた物と違っていたのだろう、彼は戸惑ったように瞳を揺らした。
オレはゆっくりと口を開いた。
「……お前の両親のこと、話そうか」
「僕の……両親……?」