虚飾の檻(3)
覆い被さるようにして、シロが言う。
オレは真っ直ぐ見つめ返すと、頷いた。
「ああ。変わらねぇよ。変わるわけねぇだろ」
ユリアが弱いのは、屋敷に来た頃から気付いていたし、
むしろ原因がハッキリしただけ、ありがたい。
「ユリアを愛してるよ。
だから、オレは……やっぱ、向き合って欲しいと思う」
「向き合う?」
「両親の死にさ。後、お前とも」
ユリアが抱く苦しさは、たぶん記憶の欠如に起因している。
まだ幼かったアイツが、心を壊さないためにすがったウソ……
それが、今も彼を蝕んでいるのだろう。
だけど、もう彼は子供じゃない。
弱いながらも、ちゃんと受け止める強さを持っているし、
ひとりで苦しむ必要もないのだ。
オレが全力で支える。
だから、苦しくても、つらくても、何度くじけたって、
一歩でも前へ踏み出して欲しい。
「お前が怒る理由だって今のユリアなら理解できる。受け入れられる。
アイツはまだ頼りない部分もあるけど、バカじゃない」
「……貴様は何か勘違いをしているようだ。
俺は、ヤツに受け入れて欲しいだなどとは思っていない」
「素直になれよ。お前はなんだかんだ言ってユリアを守ってるじゃねぇか。
心も体も」
オレはそっとシロの頬に手を添えた。
それから、ぐい、と口元の皮膚を引っ張れば、
鋭い犬歯が覗いた。
「……オレを殺したのも、ユリアを守るためだった。合ってるだろ?」
「……」
「オレがユリアを傷付けるかもしれなかったから。
でも、オレはアイツを見捨てない。
命が尽きるまで、オレはユリアの側にいる。
この気持ちは……あの時から、ちっとも変わってない」
「貴様の言うことは合っている。
だが、半分だけだ」
「へえ。その間違ってる半分を教えてくれよ」
「……俺の記憶に欠けはない。
だから――忌々しいが、アイツも俺だと理解していた。
アイツは俺の弱さだ。だからそこへ踏み込んでこようとした貴様を殺した。
が、それも……ここまでの話だ」
一度言葉を切ると、シロは俺の手を握り締めた。
「俺たちの関係は決定的に変わった。
貴様をきっかけにして」
「オレ?」
つ、と眼差しが細くなる。
「そうだ。貴様は……俺に名を付けた。
あの時から、俺には諦め切れないものが出来た」
シロはオレの手を離すと、爪先で首筋に触れた。
それからオレの首の付け根を甘噛みする。
「おい……? 何して――」
「貴様だ」
「……なに?」
「貴様が欲しい」