赤の饗宴(2)
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「ぁ……?」
獣の赤い眼差しに射られた瞬間、体の中で熱が弾けた。
オレの足の間で緩く勃ち上がった屹立がビクビクと震えて、
ねっとりとしたものが下着の中に広がる。
信じられない気持ちで、オレは目だけを下へ向けた。――射精している。
何が。何が起きた?
体が熱い。心臓がドクドクと高鳴っている。
オレは急速に体の昂りを覚えた。
「な、なに、何で……」
顎を掴まれ、無理矢理顔を上向かせられると瞳を覗き込まれる。
「ふ……気が変わった。
もう少しだけ、遊んでやる」
「やめっ、ろっ……何しっ……」
オレに覆い被さってきた獣は、
鉤爪で容赦なく衣服を切り裂いた。
オレの視線は獣の赤い瞳に釘付けのまま、胸を喘がせる。
「何故、怯える? 貴様の本業だろう」
「っ……」
大きな口が、オレの首筋を甘噛みする。
レロリと舌で舐め上げられると、気が遠くなるほどの快感を覚えた。
「やめ……触んな……ッ」
吐息がとろけていく。体の奥がズクズクと疼く。
痛みで動かなかったはずの体が、自分のものではないみたいに勝手に動いてしまう。
「……っ」
腰を掴まれ、四つん這いの体勢にされたかと思えば、ズシリと伸し掛られた。
尻の間に、熱く、とてつもない質量のものが当たっている。
「離せッ! クソ、クソッ……!!」
「黙っていろ」
頭を掴まれ、床に叩きつけられた。
「ぐっ、ぅ……」
視界がグラつく。
歯と歯の間から、荒い呼吸が溢れ出る。
「……ぁ」
濁流のような感情が胸の内に渦巻いていた。
欲しい嫌だ早く。早く。中に。嫌だ触るな欲しい
ぐち、とグロテスクな音がする。
「あ、ぅあっ……っ!」
脳天を突き抜ける衝撃に、オレは絨毯に爪を立てた。
「使い込んでいる割には、締まりがいいな」
容赦のない抽送に、目の前で星が散る。
入り口まで引き抜かれた剛直が、中の粘膜全てを擦り上げて最奥を抉ってくる。
「ん、んぐっ、ぅ、あっ、あぁっ……!
く、クソ……抜け、よ…………ッ!」
「はは、抜いて欲しい反応ではないぞ?
悦びにうねって、しゃぶりついてくる……
気持ちいいだろう? これが、チャームの力だ」
感情も理性も本能も関係ない。
絶対的なナニかに支配された体は、ただの快楽装置に成り下がっていた。
なんだこれ。
揺さぶられながら、オレは呆然としていた。
栓が壊れたように白濁が垂れ、床に水溜りができていく。
ふざけんなよ。くそ。くそ。くそが。
……気持ち良かった。頭の中がドロドロに溶けていくみたいに。
「徹底的に壊してやる。
アイツと関わったことを、いや……俺たちに深入りしようとしたことを、
後悔するんだな」
* * *
「はぁ、あっ、あっ……はぁ、はぁあっ……」
最奥を突き下され、舌が溢れる。
飲み下せなかった唾液が、滴り落ちる。
「だんだんと可愛らしい声で鳴くようになってきたじゃないか」
「だ、れがっ……」
意識が途切れる。その度に、それを上回る快感に呼び戻された。
「ひっ、ぁ……くそ……っ」
いい。いい、イイ、いイ。
背をのけぞらせて、真っ白な世界に飛ぶ。
ぐたりと体を投げ出すと、尻を引っ叩かれた。
「誰が休んでいいと言った」
両手を後ろに引かれて、ズンっと奥を暴かれる。
「かはっ……!」
仰け反るような体勢で容赦なく痙攣する粘膜を貪られた。
見開いた目から、生理的な涙が散る。
「ひぐっ、ぅ……奥は、ぁっ……」
暴力的な快感に、脳髄が焦げつく。
世界が裏返る。
「……貴様のこんな姿を見て、アイツはどんな声をあげるんだろうな。
どんな顔をして、貴様に謝るんだろうな」
昂ぶりを表すように、中の屹立が質量を増す。
何度目かの吐精の気配に体を強張らせれば、
ぐちゅりと音を立てて、ソレが引き抜かれた。
散々ぶちまけられた白濁が、ぼたぼたと後孔から溢れ出て、内腿を伝う。
穴がヒクヒクと切なく震えている。
「考えるだけで、気持ちが高ぶる」
頭を掴まれ、引き立てられた。
鉤爪がこめかみに食い込む。
「そう、物欲しそうな顔をするなよ。
望み通り、すぐに犯してやる。お前の穴という穴、全てな」
そう言うやいなや、半開きになった唇に獣の剛直が捻じ込まれた。
「まずは口からーー」
傘張る先端が喉奥を突く。
濃厚な血の味が口の中に広がっていく。
「ああ、だが……歯が邪魔だなぁ?」
白い満月を背に、獣は笑った。
――オレは目を見開いた。