人狼坊ちゃんの世話係

聖なる夜の贈り物(3)

 ケーキにフォークを刺せば、
 中央からトロリとチョコレートが溢れ出る。

「ユリア。……アーン」

 一口大に切り分けて、恋人の口元に運んだ。
 彼は嬉しそうな様子で、それにパクつく。

「んっ……」

「味どうだ?」

「すっごく美味しいです!」

 眩い笑みで答えるユリアに、オレは鼻の頭をかいた。

「そか。良かった」

 続けて、2口目を差し出す。

 ユリアは唇についたチョコを舐めてから、
 再びケーキを口にした。

 そんな彼を眺めていたオレの胸が、ふいにトクンと高鳴る。

 初めは、雛に餌付けするような気持ちで、フォークを差し出していたのに、
 なんだか彼の口元から目を離せない。

「お前……誘ってる?」

「え?」

 口を突いて出た言葉に、ユリアがきょとんとした。
 その表情は、本気でオレの言うことが分からないと告げてくる。

「……なんか、食い方すげぇエッチなんだけど」

「エッチな食べ方ってなんですか」

「あー……」

 ますます訝しげにするユリアに、
 オレは気恥ずかしい思いに襲われて、目線を逸らした。

「……いや、さ。お前、色っぽくなったんだなあと思って」

 冗談めかして、オレは続ける。
 でも、その言葉には一片たりとも嘘はない。

 舌で唇を舐める仕草が。
 ケーキを含んだ瞬間、嬉しそうに目を細める仕草が。
 ……甘い時間のそれを彷彿させる。

「それって、ええと、褒めてます?」

「褒めてる。褒めてる」

「えへへ……」

 ユリアが照れたように頬を赤らめた。

 オレは皿をテーブルに置くと、
 彼の首に腕を回して唇を重ねた。

「んっ……バンさん……?」

 ……部屋にいた連中は、気を利かせてくれたようで
 知らぬ間に、姿を消している。

 オレはソファに膝立ちになり、
 彼の髪を引っ張り上向かせて、更に舌を絡めた。

「んん、ふ、ぁ……」

 チョコレートの甘さと、かすかなワインの味が口の中に広がる。

 ユリアが慣れたようにオレの腰を抱いた。

「ん……ユリア……」

 くちゅくちゅと水音を立て、互いの唇を貪り合う。
 先端で突き合い、唇で扱き、表面を擦り合わせ……

 やがて銀糸を引いて、唇が離れた。

「前は、キスするだけであわあわしてたのにさ」

 今では慌てる素振りもなく、
 慣れた手付きでオレのシャツを乱していく。

 オレはされるがまま裸になって、
 彼の太股を跨ぐように座った。

「今じゃ、手慣れたもんだ」

「バンさんは、初めからずっと色っぽいですよ」

「ははっ、こんな鶏ガラが?」

 肩をすくめてみせれば、ユリアはちょっと怒ったようにした。

「もう。そんなことないですよ。
 引き締まってて、しなやかで、凄く素敵です。
 野生の動物みたいな魅力があります」

「物は言い様だな―――ぁうっ」

 晒された素肌に、ユリアの熱い手が触れて声が弾む。

 彼はオレの胸元をゆっくりと円を描くように撫で回しながら、
 首筋に優しく噛みついてきた。

「ん……」

「本当にあなたは魅力的ですよ。
 凄く……敏感で、エッチだし」

 焦らすように乳輪の縁を周辺を指でなぞられる。
 中心が次第に膨らむのを、ユリアにじっと見つめられ、
 オレは耐えきれずに目線を逸らした。

「ふ、は、ぁっ」

 ちゅうっと乳首を吸い上げられて、背が仰け反る。
 もう片方も指で抓まれると、次第に息が上がっていった。

「……も、いいから。
 早く、プレゼント寄越せよ」

「もちろん。奥まで、受け入れてください」

 オレは腰を浮かせると、ズボンのベルトを抜いた。
 それから、ユリアにも同じようにする。
 触れる足の間は、互いに痛いほど膨らんでいた。

「……そうだ。ねえ、バンさん。
 僕、思いついたんですけど」

「ん?」

「交換しません?」

「は?」

 ズボンをくつろげていたオレは、
 顔を持ち上げるとユリアの顔をまじまじと見つめた。

「交換って……
 何だよ、お前。突っ込んで欲しかったのか?」

「えっ!? ち、違いますよ! あ。いや、その、嫌とかではないんですよ?
 でも、今はそういうことを言っているわけではなくて……」

 ユリアは隠すように自身の尻に手を当ててから、続けた。

「つまり、あなたが僕の主人になって、
 僕があなたの世話係になるんです。
 どうです? 楽しそうじゃないですか?」

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