人狼坊ちゃんの世話係

聖なる夜の贈り物(2)

「ユリア?」

 見上げたユリアは、どこか決意めいた眼差しをしている。

「まずは、僕のプレゼントを受け取ってください」

「お、おう」

 なんだよ。
 そんなにマジになるような贈り物なのか?

 オレなんてほぼほぼシェフに手伝って貰ったっていうのに。

 彼は神聖な儀式を執り行うかのように、
 ポケットから赤いリボンを取り出した。

「バンさん」

 なんだろう、と思って見ていれば、
 ユリアはそれを自身の首に巻き付け、リボン結びをする。

 それからニコリと微笑んだ。

「どうぞ、受け取ってください」

「どうぞって……何をだよ」

「プレゼントですよ!
 つまり、その、だからっ……ぼ、僕を」

 消え入りそうな声で告げられた内容に、
 一瞬、思考が停止した。

「…………」

「どうして黙るんですか!?」

 顔を真っ赤にして、ユリアがあたふたする。
 オレはこめかみを押さえ、言葉を探しつつ口を開いた。

「いや、だってさ……
 こんな四六時中一緒にいてイチャついてんのに、
 僕をプレゼント、って言われても。
 お前、もうオレのもんだし」

 オレのもんをプレゼントされてもなあ。
 いや、まあ、嬉しいけれども。

 ハラハラした分、微妙な気持ちになってしまった。

「バンさん……!!」

 一方、ユリアはなんだか感動した様子で、
 オレに、めちゃくちゃキスをしてきた。

「んっ、ちょ、待っ……んん、ん……っ」

 舌が忍び込んできて、息が上がる。

 部屋に流れていた静かなクラシックが、
 盛り上げるようなテンションに変調した。

 余計なことすんな。
 ってか、なんでもうユリアはこんな出来上がってんだよ!

「ステイ!」    声を上げると、びくりとしてユリアが唇を離す。

「ステイって……僕、犬ですか」

「同じようなもんだろ。
 ってか、盛るな。オレのプレゼント渡してねぇ」

 オレは肩で息をつきつつ乱されそうになったシャツを整え、
 モミの木の下に準備していたプレゼントを手に戻った。

「今日は特別な日だろ。
 どーせヤるんだから、少しは落ち着けよ」

「ちょっ、バンさん!
 もう少し慎ましく……」

「ん? ヤらねぇの?」

「しますけど!」と、即答してから、
 ユリアはボソボソと続けた。

「……でも、ほら、やっぱりロマンチックにいきましょうよ。
 だって、今日は聖なる夜なんですよ?」

「どう言ったって、ヤるはヤるだっつの」

 そもそも『僕をプレゼント?』の時点で、
 ロマンチックもへったくれもないと思う。

 誰だ、こんなしょーもないこと教えたのは。

 オレは内心、大仰に溜息をついた。

「バンさんの意地悪……」

「拗ねるなよ」

 ひとまず、きちんとステイ出来たユリアの頭を撫でてから、
 オレは贈り物を手渡した。

「ほら、オレからのプレゼント。開けてみ?」

「ありがとうございます」

 コロリと表情を変えて、ユリアが丁寧に包装を剥がしにかかる。
 続いて彼の唇から、わあっと感嘆の声が漏れた。

「ガトーショコラじゃないですか!
 もしかして、バンさんが作ってくれたの?」

「まあ……一応?
 シェフに教えて貰ったから、味はそこまで悪くはねぇと思う」

 意外とうまくいったと思っていたケーキは、
 冷静になって見ると、飾りの粉砂糖が偏っていて、
 ちょっと不格好だった。   「バンさんは何でも出来るんですね。凄いなあ」

 ユリアは皿の上にケーキを移動すると、
 下から覗き込んだり、左右から見たりと感心したように眺める。

「は、早く食べろって」

 オレはユリアの手からケーキの乗った皿を取り上げた。

 本当にシェフの言う通り作っただけなのだ。
 カカオをチョコレートにする行程は任せてしまったし……

 だから、1から100まで褒めるようなユリアの言い草に、
 いたたまれなくなってしまう。

 そんな気持ちを隠すようにして、
 オレは皿にフォークを添えると、ユリアに突き返した。

 すると、ユリアは意味深な笑みでもって、
 皿を持つオレの手に手を重ねた。

「せっかくですし、食べさせてくださいよ」

「……言うと思ったよ」

 オレはこそばゆく思いながら、肩をすくめた。

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