人狼坊ちゃんの世話係

聖なる夜の贈り物(1)

「よし、出来た」

 オレは綺麗に包装し終えた箱を見下ろして、
 ホッと胸を撫で下ろす。
 なんとか今夜のパーティに間に合わせることが出来た。

 今日は、年に1度の不滅の太陽神ミイロの祝祭日だ。

 何処の家庭も、家族で集まり、いつもよりも豪勢な食事をして、
 互いに用意したプレゼントを交換する。

 そういうわけで、オレもユリアにプレゼントを準備した。

「喜んでくれるといいんだけどな」

 箱の中身は、手のひら大のチョコレートケーキだ。
 屋敷のシェフに教えて貰いながらオレが作った。

 もちろんシェフに作って貰った方が何倍も美味いに決まってる。

 甘菓子を作るなんて初めてだったし、
 そもそも甘い物なんてほとんど食べたことがないから、
 うまく出来たかは……自信がない。

 いや、一生懸命作ったけど。

 ユリアなら、あまり旨く出来なくても喜んでくれるだろうという
 打算がなかったわけではない。

「ま、まあ、プレゼントは気持ちって言うし」

 誰にともなくそう呟いて、オレは部屋の窓の外を見た。

「雪……」

 いつの間にやら、雪が降り始めていて、
 地面に薄らと白く積もっている。

 どうりで寒いわけだ。

 束の間、家族と過ごした昔の日を思い出してから、
 オレはプレゼントを手に、応接室へと向かった。

* * *

 応接室には、天井まであるモミの木が用意されていた。
 それには色とりどりのリンゴの飾りがぶら下げられ、
 てっぺんには星がきらめいている。

 夜の眷属と言っても、人間と同じように祝祭を楽しんでいるらしい。
 それとも、ユリアが特別なんだろうか。

「みなさん、おめでとうございます」

「おめでとう」

 ユリアが応接室にやって来ると、
 いつもは箒を片手に動き回る使用人たちの数人が、
 今日は楽器を奏でて主人を出迎えた。

 オレはもちろん音楽なんて分からないので、  サーブ係だ。

「ミイロの祝福に、祈りを捧げます」

 ユリアが手を組み、祈りの文言を唱える。
 それから、穏やかな食事の時間が過ぎて……

 オレは彼のグラスに食後のワインを注いだ。

「バンさんは、お酒って飲めましたっけ?」

「ん? まあ、たしなむ程度には」

 実際は浴びるほど飲むが、ここは猫を被っておく。
 すると、メイドが1つグラスを持ってきた。

「1人でお祝いするのは寂しいので。もし宜しければ」

「喜んで」

 グラスを受け取ると、
 ユリアは食事の席を立ち、モミの木の前のソファに移動した。

 メイドがオレの代わりにボトルを傾けてくれる。

「ありがとう」

「それでは――乾杯」

 ユリアの隣に座り、グラスを鳴らした。
 芳醇な香りが鼻孔をつき、口に含めば思わず唸り声が漏れる。

 美味い。
 なんと説明すればいいのか、よく分からないが、
 めちゃくちゃ美味い。

 オレが今まで飲んできた酒は、
 工業用だったんじゃねぇかと思うくらいだ。

「僕、バンさんにプレゼントを用意したんですよ。
 受け取っても貰えますか?」

「もちろん。ってか、オレも用意してて……」

 モミの木の前に用意していたプレゼントを取るべく、
 席を立とうとすれば、突然、ソファに押し倒された。

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