眠れる、熱い毒(7)
* * *
怒声と共に複数の剣が一斉に振り下ろされる。
奴らは1本じゃなければ、なんとかなるとでも思っているのだろう。
「鬱陶しい……!」
体を捻るようにして大きく腕を振るう。
その一撃で、銀の剣は大きくひしゃげ、使い物にならなくなった。
「ぐっ!?」
たたらを踏んだ男たちの誰が漏らした声なのか俺には判別できなかったが、
もしかしたら全員の声が重なっていたのかもしれない。
それを裏付けるように、男たちが俺から僅かに間合いを空けた。
「えぇい、私が行く!」
下がった男たちを跳ね飛ばすようにして、男が1人、剣を並行に構え突撃してくる。
「少しは頭を使ったようだな」
俺に対して、振り下ろすという面の攻撃は効果が薄いを気付いたのだろう。
刺突という点の動きへと切り替えたのだ。
これならば、武器が壊されるリスクも低い。
「だが、攻撃の軌道を読むのは容易だ!」
構えの性質上、剣先から真っ直ぐの方向にしか攻撃ができない。
故に、造作もなく振り払う事ができる。
男が腕を伸ばしたのを確認し、俺は剣を真っ二つにするべく爪を振るう。
その瞬間、男の姿が視界から消えた。
「なッ!?」
いや、消えたのではない。男が態勢を沈ませたのだ。
俺の爪が宙を掻く。
その瞬間を待っていたかのように、
男は刃を返すと俺を腕を撥ねるべく剣を振り上げた。
あの男――ヴィンセントが使っていたモノと同じ、カウンターを主体とするスタイル。
あの時、奴と相まみえていなかったら腕を斬り落とされていたかもしれない。
だが、俺は既にこの対処法を知っていた。
「うおおおおおおッッ!」
腕を振るった勢いのまま体を反回転させ、蹴りを剣に叩き込む。
「ぬぐっ!?」
ただの人間に俺の攻撃が耐えきれるはずもなく、
腕へと迫っていた剣は自らの胴へと叩きつけられ、そのまま背後へと吹き飛んだ。
「嘘だろ……?」
そんな呟きが夜風に乗って流れていく。
一瞬、殺してしまったかと思ったが、
何の異常も起こっていないのを見るに、まだ息はあるのだろう。
もっとも、剣を握っていた手は、もう使い物にならないかもしれないが。
「まだ、やるつもりか?」
そう言って、俺は首の骨を鳴らした。
どいつもこいつも口を噤んだまま、声を発しようとしない。
このまま返答を待っていても無駄だと判断して、
俺は見張りの塔へ向かって歩き出す。
刹那、俺の足下に弓が突き刺さった。
どうやら、連中はまだ遊んで欲しいらしい。
俺は矢が飛んできた方向に視線を向けようとして、その違和感に気付いた。
(背後などまったく警戒にしていなかったにも拘わらず、なぜ弓を外した?
俺に恐怖を憶えていたからか?
いいや、違う。
正確に俺の足下へ『外す』など、そんな偶然が起こるわけがない)
不穏な匂いを感じ、その場から飛び退ろうとする。
だが、判断が僅かに遅かった。
足下の石畳が膨れ上がる様にして、爆発が起こった。
閃光が辺りを包み、無数の石片が俺の体に襲い掛かる。
「がああああああ!?」
一瞬にして目が焼かれ、視界を失う。
矢は外れたのではなかった。
足下に仕掛けられていた罠を正確に発動させたのだ。
「今だ、かかれ!」
複数の足音が四方から俺へと殺到する。
とにかく奴らを近付けまいと腕を振るうと、
その腕に数本の矢が突き刺さった。
「ぐっ!?」
それほどダメージがあるわけではない。
だが、無視をできるようなものでもない。
このまま矢を受け続ければ、徐々に動きは鈍くなり、
益々奴らの思うつぼになるばかりだろう。
「そこだッ!」
背後で金属が擦れる不快な音が響く。
俺はその音を頼りに後ろに蹴りを放つ。
「がはッ!?」
足に鈍い衝撃が伝わった。
だが、間髪入れずに左右から2つの斬撃が俺を襲う。
漏れそうになる声をなんとか飲み下し、両腕を左右に突き出した。
――が、返ってきたのは右腕の衝撃のみ。
左はかすりもしなかったらしい。
「いける……これならいけるぞ!」
「一気に畳みかけろ!」
幾重にも地面を蹴る音が響く。
視力は、まだ回復しない。
俺は舌打ちをしながら、一番近い音へと腕を振るう。
爪先に感覚が残るが、倒せるほどのものではなかった。
それでも、構わずに腕を振るい続ける。
こうしている限り、そう簡単には近付いては来れないだろう。
と、膝裏に鈍い衝撃が走った。
何本もの矢が膝裏を貫いたのだ。
不味いと思った時には、俺の膝は地面へと落ちていた。
バランスが崩れ、首が前へと倒れる。
「はあああああああ!」
頭上から声が響いた。
俺の首を両断するつもりなのだろう。
だが、どの方向へと避ければいいのか皆目見当もつかなかった。
俺は首を守るべく、手を盾にしようとして――
「右斜め前に転がれ!」
唐突に聞こえた声に従い、俺は体を転がす。
すると、背後で金属が意志を削る重い音が響いた。
「右に2人だ。それから、前に3人。
後ろからも近付いてきてるぞ!――うおっと!?」
風を裂く音が空から響き一瞬声が消えるものの、
すぐに別の場所から聞こえてくる。
俺はその声に従い、移動し、攻撃を繰り返した。
やがて、俺の背中に誰かがぶつかる。
「良かったな、ちゃんと世話をしてくれるやつがいて」
「フン……
俺1人でも充分だった……」
周囲にはまだ幾人か鎧姿の男たちが残っていた。
だが、俺の視界も問題ない程に回復している。
「そうかよ。そんじゃあ、とっとと塔を登っちまおうぜ」
そう言って、使用人――バンは、この俺を肘で小突いてきた。