人狼坊ちゃんの世話係

うたかたの(3)

 ユリアは慣れた手付きで、
 取り出したオレの屹立を右手で握り締めると、ゆっくりと動かし始めた。

「そんなことないですよね?
 ……こんなに固くなってるのに」

「んくっ……こ、こら……」

 俯いて体を強張らせたオレの耳朶に、
 ユリアの唇が触れる。

「……呆れないでね、バンさん」

 そうして、彼は掠れた声で続けた。

「僕、あなたに夢中なんです。
 あなたと出会うまで、何を考えて一日を過ごしてたのか、
 思い出せないくらい……
 ずっと、あなたのこと考えてる」

 大きな手が、根元から肉傘の下までを余すことなく扱く。
 その力加減は絶妙で、しっとりと汗ばんだ手のひらが、
 竿肌に吸い付くようだ。

「は、ぁっ……はぁ、はぁっ……」

「四六時中、こうしてあなたに触れていたい……
 少しでも離れてると、すぐ不安になっちゃうんですよ……」

「なん、で……不安に、なるんだよ……
 こんな、ぁう、毎日……一緒にいて……っ」

「おかしいですよね。
 あなたに嫌われたくない、って思うのに、
 好きを止められないんです。
 あなたが欲しくて欲しくて、たまらない。
 ぬくもりを、確かめずにはいられないんです……」

「ぁ、ま、待て、っ……
 そんな、動かしたら……っ……」

 限界を覚えて、オレは慌ててユリアの手に手を重ねた。
 握り締めるようにして、彼の動きを止める。

 手の中で屹立がビクビクと脈動していた。

 荒い呼吸を繰り返し、衝動を体の外へと逃がそうとすれば、
 ふいに、耳の縁を舐められた。

「んぁ……っ」

 背にゾクゾクした快感が走り、
 裏返った声が漏れる。   「……可愛い」

 ユリアが呟いた。かと思うと、

「バンさん、可愛い。可愛いね……」

 手の動きが再開した。
 先ほどよりも、激しく、速く。

「あっ……ふぁ、や……やめっ……」

「止めない。
 だって、気持ち良いでしょう?
 顔真っ赤にして、ふぅふぅ言って、
 凄く……凄く、可愛い……っ」

「バ、バカ、バカ、出る、出るからっ……!

「いいよ。イッて」

「ダメ、だって……床、汚れる……っ」

「……それなら、僕の口に出して。
 そしたら、汚れないから」

 そう言うやいなや、ユリアは椅子から下りると
 しゃがみ込んで、オレの足の間に顔を埋めた。

「あっ……!」

 根元まで咥え込まれた瞬間、腰が浮く。

「んっ、くっ、ふ……あ、ぁっ……!」

 喉奥で扱かれ、我慢なんて出来るわけがなかった。

 オレがもっとも心地良く感じる方法を、
 オレ自身が彼に徹底的に教え込んだのだ。

「んっ……!」

 爪先が床を離れた。
 ユリアの頭をかき抱いて、オレは果てた。

「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……
 ゆ、ユリア……離せ……も、出た……出たから……っ」

 一滴もこぼすまいと、
 彼はビクビクと跳ねる欲望を吸い続ける。

「ぁ、やめっ……ん、んんっ、んっ……」

 やがて、ゆっくりと顔を上げたユリアは、
 陶然と微笑むと、口を開いた。

「ふごぃ、いっはい……れたね」

 唾液と絡まる白濁を見せつけるようにしてから、
 ゴクリと飲み込む。

「……美味しい」

 オレはその無垢な微笑みから、
 思わず目を逸らした。

 出したばかりだというのに、
 愛おしさが溢れて、昂ぶりが収まらない。

「……お前、そういうこと、するな」

「どうして?」

「どうしても、なにも……
 なんか……すげー悪いことしてる気がするんだよ……」

「バンさんだって、飲んでくれるのに?」

「オレはいいの!
 でも、お前は……
 そんな、はしたない真似したらダメっつーか……」

 純粋無垢だった恋人が、オレのせいですれてしまうのは嫌だというか。
 でも、オレ好みになってく恋人が嬉しくもあり。

「バンさんがしてくれて、嬉しかったんだよ。
 だから、僕もしたいと思ったんですけど」

「いや、うん、オレも、もちろん嬉しいんだけど……」

 うまく言葉に出来ない。
 複雑な感情が胸に渦巻いて、オレは呻く。

 そんなオレを見上げて、ユリアは不思議そうに小首を傾げた。

「……バンさんは、僕がエッチになるのは嫌ですか?」

「それは……」

「一緒に気持ち良くなろうって、
 たくさん教えてくれたのは、あなたなのに?」

「う……」

 言葉に詰まれば、ユリアが噴き出した。

「諦めてよ、バンさん。
 僕は、あなたとエッチなことするの大好きになっちゃったし。
 むしろ、そんな風にしたのはバンさんなんだから、
 ちゃんと責任取ってくれないと」

「責任……」

「そう、責任。
 責任とって、僕の愛を受け入れて?」

 へろん、と力を失ったオレの肉竿を、
 ユリアが、はむはむと甘噛みする。

 ついで彼は舌を突き出すと、
 オレを挑発するように、裏筋を舐め上げた。

 オレは額に手を当てて、長い息を吐く。

「……そう、だよな。
 責任、とらねぇとな」

 オレはユリアの頬を両手で包み込むと、そっと押しやった。

「バンさん?」

「イス、座れ」

 オレは下着ごとズボンを引きあげると、
 ユリアを椅子に腰掛けさせた。

「実はさ……ずっと思ってたんだ。
 お前は我慢が出来なさ過ぎるって」

 それから、オレは自分のベルトを引き抜いた。

「バンさん、あのっ、何を……?」

 彼の背後に回り、
 ユリアの腕を後ろ手に椅子の背もたれを抱くようにして、
 ベルトで縛り上げる。

「お前をドスケベにしたのはオレだけど、
 そこかしこで発情するのは、オレの美学に反する」

 オレは、ユリアの上着のポケットからオイルを抓み上げた。

「責任とって、躾けてやる」

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