このクズ野郎。俺と一緒に死んでくれ。

変身

 ある朝のことだった。

 ベッドで目覚めた俺は、自身に起こった異変に気付いて息を飲んだ。

「え……」

 胸元に感じる、不自然な重さ。
 見下ろせば、胸元のパジャマが不自然に盛り上がっている。

 恐る恐る触れてみると……
 そこには、むっちりとした肉感の、脂肪の膨らみがあった。

「は……何これ……」

 乱暴に扱ってみたが、外れる気配はない。それどころか、痛い。

 俺は震える指先をサイドボードに伸ばし、眼鏡を手に取った。
 視界がクリアになると、俺は思い切って、パジャマのボタンを外した。

 ――悪い冗談だと思った。

 冗談じゃないなら、俺はまだ夢の中にいるのだろう。

「胸……」

 胸、というか、おっぱいだ。おっぱいがついている。俺の胸元に。

「……意味、分からないんだけど」

 AカップとかBカップとか、その辺りはよく分からないが、
 両手で掬い上げてみると手の端から脂肪がはみ出て、ずっしりと重い。
 重力に逆らえず、ちょっと形がくずれている。

 乳輪は綺麗な薄い桃色で、下品なくらいに大きかった。

 ……とりあえず、揉んだ。

「わ……すご……」

 手に吸い付く肉感はふわふわだ。
 なんとなく、貴文を筆頭に世の男子が……いや、人類の多くが
 魅了される理由が分かった気がする。

 俺はひたすら揉んだり、揺らしたり、引っ張ったりしてから、溜息をついた。

「……夢だ。夢」

 普通に考えてありえない。

 俺はパジャマを着直すと、再びベッドに寝転がった。
 キツく目を閉じ……ふいに意識が下半身に向く。

 ……ない。

 ない気がするとか、そういうあやふやな感覚ではない。
 断言できる。股間にあるべき俺の息子の存在が消えていた。    ズボンの上から、押さえてみる。
 思った通り、そこにあるべき膨らみも感触もなかった。

「……」

 あの古典的名著のごとく、
 唐突に、なんの理由もなく、俺の体は別のものになっていた。

 虫じゃなかっただけマシかマシじゃないのか、考えてやめる。
 上掛けを頭からかぶり、瞼をぎゅっと閉じた。

 次はもう少しまともな夢を見よう。
 そう思った矢先――部屋の扉が、乱暴に叩かれた。

「いつまで寝てるの。もう出る時間でしょう?」

 母だ。俺は慌てて扉に背を向けた。

「すぐに着替えるよ」

「お母さん、今日朝から会議だからもう出るわよ。
 朝食は用意してあるから、食べ終わったら、皿、ちゃんと水に浸けておいてよね」

「分かった」

 母は足音高く階段を下りると、玄関を出ていった。

「……どうしよう」

 とにかく、胸を潰さないと学校にはいけない。

 俺は藁にもすがる思いで自室を物色する。
 もちろん、さらしなんてない。
 とりあえず、俺は胸を潰すようにガムテープをシャツの上からグルグルに巻いた。
 それから普通に制服に着替えて学校に向かった。

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