このクズ野郎。俺と一緒に死んでくれ。

貴文と俺(2)

「今日、珍しくカツサンドが残ってたんだ。
 後は、ツナマヨとハムチーズと、ピザパンと……」

 そう口を開けば、貴文の左右で「甘いのは~?」と甲高い声がハモる。
 俺は無言で貴文の対面に座り、パンの入った袋をひっくり返した。

「お、カスタードパンとチョココロネあるじゃん。
 しかも二つずつ。さすが、翔太。気が利くわ」

 貴文はひょいひょいとめぼしい菓子パンを幾つか手に取ると、
 恋人たちにとろけるような笑顔を向ける。

「ほら。好きな方、食えよ」

「ありがと~。あーし、チョコがいいな」

「あたしも、あたしも」

 綺麗にネイルした二つの手が、それぞれチョココロネを取り上げる。

「……ああ、そうだ。お釣り。忘れる前に」

 俺が上着のポケットの中に手を突っ込むと、貴文はつまらなそうに肩を竦めた。

「いらねー。いつも言ってるだろ。買いに行かせてるお駄賃だって」

「だけど……」

「貴ちゃん、貴ちゃん、チョココロネ食べる?」

「はい、アーンして?」

 貴文の意識は、完全に俺から逸れて左右に向かう。
 俺はポケットの中に突っ込んだ手を握りしめ、内心舌打ちした。
 女というだけで貴文の腕の中にいられる彼女たちが妬ましい。

 ……お前ら、昨日は何処でどんな風に抱かれたんだよ?

 どんな体位で、貴文は何回射精した? 中出し? ゴムあり?
 なあ、イク時の貴文はどんな顔してんの?

 さっき彼らのことを金だけあるゴミとか言われて頷いた気がするけど、
 俺も大概だとつくづく思う。

「んじゃ、オレはツナマヨパンもーらおっ」

 その時、最近、貴文と仲良くなったばかりの佐藤が、
 へらへら笑って惣菜パンに手を伸ばした。

 すると、貴文がすかさず彼の手を掴む。

「あ? 男はそこら辺の草でも食ってろよ」

「いっ……! な、なんでだよ、パン、残ってるじゃん!」

「バーカ。残りは全部翔太のだ。
 ほら、翔太。お前は細くて小せえんだから、食ってでっかくなれ」

「あ……ありがとう。でも、一個で十分だから。彼にあげてよ」

「うるせえ。俺が食えつってんだから、食うんだよ」

 カツサンドと、テリヤキバーガーを除いた惣菜パンを、
 ひょいひょいと投げてくる。

「まだ、一昨日のパンも食べ終わってないってば……」

 俺はそれを受け取りながら、困ったように眉根を下げた。

 もともと食欲旺盛なタイプでもないし、朝と夜に食べても余っている。
 捨てるのも、良心が痛むし。
 どちらかと言えば、佐藤が食べてくれた方が助かるのだが……

「ショータってさ、めっちゃオレんちの犬そっくり」

「犬?」

 カツサンドを手にそんなことを考えていると、佐藤が話題を変えた。

「オレんちの犬も、いろんなもん貯め込んでんだよね。ホネとか。
 そいや、よく見れば顔も犬っぽい?」

「あっ、それ分かる?。目、クリクリでカワイイよね」

「貴ちゃんも、そう思わない?」

 水曜の女二人が反応すると、貴文の意識が一瞬コチラを向いた気がした。

 カッと頬が熱くなって、俺は俯く。
 彼の視線を意識すると、知れずダラダラと嫌な汗が噴き出てきた。
 見つめられて顔を赤くするなんて、キモ過ぎる。
 意識すればするほど、手に汗をかいてきて、今すぐ消えてなくなりたくなった。

「メガネのせいで見過ごしがちだけどさ、目、二重でパッチリだし?」

「そーそー、まつ毛も長いしね。ワックス付けて髪整えたら、見違えそう?」

 女二人がキャッキャとはしゃぐ。すると、貴文の冷めた声が落ちた。

「どーでもいいっつの。男の顔とか」

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