人狼坊ちゃんの世話係

セシル君は素直になりたい(16)

 ヴィンセントが息を飲む。
 ボクは、彼の指に指を絡ませて続けた。

「……隠さなくていいじゃん。
 ボクだって、お前になら……泣かされたい。
 痛いのだって、平気。
 そっちの方が、むしろ……気持ちイイよ?」

「気持ち良い?」

「うん……なんとなく、生きてるって感じてさ」

 ボクの体はずっと昔に死んでしまった。
 死体ですらないこの体は、動き回る悪夢みたいなものだと思う。

 だから、ヴィンセントに与えられる痛みは心地良かった。
 彼の手の中で、生きている気がして。

「ねえ、ヴィンセント。
 ボクのこと、酷くしてよ。
 さっきみたいに、たくさん泣かせてよ」

 ちゅ、と彼の指にキスをする。
 ヴィンセントは束の間、瞼を閉じてから、ボクを見た。

「いや……優しくする」

「…………お前、頑固過ぎ」

「初めてを痛いで終わらせたくない」

「じゃあ、明日からは?」

「なに?」

「明日は……初めてじゃないよ」

 ボクがニヤリと笑うと、ヴィンセントは目を小さく見開いた。
 それから諦めたように嘆息して、
 ボクの首筋に顔を埋めた。

「ヴィンセント?」

「ああ……そうだな。明日は初めてじゃない」

「それなら……」

「本当にいいんだな? めちゃくちゃにして」

「……っ!」

 腰に響く低音で囁かれ、
 体がビクリと反応してしまう。

「お前が泣いて止めてと言っても、止めない。
 俺の好きなように可愛がる。
 そうして、いいんだな?」

「ダメなわけない……
 ……たくさん、愛してよね」

「ああ」

 繋がったまま、ボクらは唇が腫れるほどキスをした。
 やがて、ヴィンセントはゆっくりと動き始めた。

「あっ、あっ、あぁっ……!」

 だんだんと、中が彼の形になっていくのを感じる。

「もっと……もっと、ヴィンセント……
 奥、奥、きもちいい……っ」

「……っ、あまり煽るな」

「ンひゃうっ……!」

 片足を抱え上げられた体勢で
 最奥をズンズン掘削されると、下半身が熱くとろけていく。

「あっ、あっ、あっ……
 ヴィンセント、そこ、そこおっ……」

 肌と肌がぶつかり合う音と、
 じゅぼじゅぼと物凄くエッチな音が部屋に響いていた。

 ボクの理性は欠片も残っていなくて、
 ただ快楽を貪り、ヴィンセントの切ない眼差しに胸を躍らせる。

「きも、ちいっ……あっ、んくっ、ふ、はぁあっ……
 イッちゃう、また、あっ、あたま、まっしろに……なっちゃ……」

「何度でも、イかせてやる」

「あぁぁぁああっ……!」

 高みへと放られる。
 続けざまに突き下ろされて、ボクはヴィンセントに手を伸ばした。

「スキ……スキだよ、ヴィンセント……っ」

「……っ」

「ひ、ぁ……またっ、ヴィンセントの……大きくっ……」

 前後不覚で揺すぶられていると、
 逞しい腕に抱きしめられた。

「……そろそろ、イくぞ」

「ん……イッて……ボクの中に……出して……」

「セシル。
 セシル……こっちを向け」

「ふぇ?」

 ぼんやりと顔を上げれば、唇を貪られた。

「ん、んんっ、ン……
 ヴィ……ん、らめ、それ、舌……きもちいっ……
 お尻も、ぁ、うっ、舌も……
 気持ち良すぎて、はぁう、おかひくなる……」

 潰されてしまいそうなくらいに、のし掛かられた。
 入口から、最奥までを余すことなく刺激されて、
 目の前に星が散る。

「気持ちいいの、これ、あっ、
 奥、奥もすごいよ……ヴィンセント、ヴィンセント、
 ボク……ボクまた……」

「ぅ……」

 2人分の唾液を啜りあげて、ヴィンセントが呻いた。

「セシル……出すからな……」

 痛かったのが、遠い昔のことみたいだ。
 ボクはヴィンセントにしがみついて、瞼を閉じ――かけて、
 ぐっと奥歯を噛みしめた。

 ボクはヴィンセントを見つめる。

 潤んだ視界の中で、
 彼は眉を切なげに寄せ、体を硬直させて、ブルリと震えた。
 上気した頬に、汗が、つと流れる。
 たまらなく、色っぽかった。

 次の瞬間、ボクの意識はパッと弾けた。
 それは世界が裏返ったかと思うほどの、衝撃だった。

「あ……」

 熱い。
 ヴィンセントのが、ボクの中を真っ白に染めていく。

「んぁ……ヴィンセント……
 おなか、キュンキュンする……」

 凶悪に大きなソレが、ボクの中で跳ね回って、
 注がれた白濁がドプドプと音を立てている。

「ヴィンセント、ヴィンセント……っ、
 どうしよ……きもちいいの……止まらないよ……」

「……俺もだ」

 ヴィンセントが、汗で張り付いたボクの前髪をかき上げてくれる。

 見つめ合ってから、ボクは舌を突き出した。
 ヴィンセントがそれにパクついて、唇で扱いてくれる。

「んっ、んンッ、ふっ……あ……」

 そうして、再び彼は動き始めた。

「いい……ヴィンセント……ん、んんっ……」

「セシル。セシル……愛してる……」

「ボクも……」

 もっとして。
 もっと、ボクのこと、スキって言って。
 体で。言葉で。もっと。……もっと。

 甘やかな夜に飲まれていく。

 ボクはヴィンセントの肩に思いきり噛みついた。
 ――何故って、2人を分ける肉体がなんだか恨めしかったからだ。   * * *

 ねえ、ヴィンセント。

 もしもお前が、その呪いに負けてしまうようなことがあったらさ、
 その時は、ボクがお前を殺すよ。
 そうしたら、もう離れることはないでしょ?

 お前の人生を僕がもらって、
 お前に、ボクの全てをあげる。

 ……でもね、これは最後の最後の話だ。

 どんなに辛いことがあっても、
 ボクはお前と生きるのを諦めない。

 ねえ、ヴィンセント。
 ……ヴィンセント。大好きだよ。


番外編『セシル君は素直になりたい』 おしまい。

-98p-