人狼坊ちゃんの世話係

終わりなき行く末(4)

* * *

 オレはユリアに連れられて、
 渋々ながらヴィンセントとセシルの見送りに出ていた。

 屋敷の前には、ずらりとメイドたちが居並んでいる。
 星の降るような夜だった。

「今度こそ、本当に行っちゃうんですね。
 寂しくなります」

 呼びつけた馬車の前で、ユリアはセシルの手を握りしめた。

「色々とありがとう、ユリア。
 それと……本当にごめんね」

「謝らないで、って言ったでしょう?」

「うん……  あの、さ。……手を出して」

 そう言って、セシルはあの指輪を外すと、
 ユリアの手の上に乗せた。

「これは……」

 驚いたように指輪を見下ろすユリアに、
 セシルは続ける。

「君に持ってて欲しいんだ」

「大事なものなんじゃないんですか?」

「うん……でも、これがボクなりのケジメ。
 指輪を手放しても、根本的な解決にはならないって思うけど、
 ボクは心が弱いから」

「……分かりました。では、大切に保管しておきますね」

 ユリアはニコリと微笑むと、指輪を握りしめた。

「保管?」

「ええ。いつか、大丈夫になったら取りに戻って来てください」

 セシルが目を見開く。
 それから、彼はユリアに飛びついた。

「……君って、本当、お人好し過ぎるよ」

「お人好しなわけじゃないですよ。
 あなたは友達だから」

 ユリアは小さな背を抱きしめ返す。

「また、トランプしましょうね」

「……うん。ありがとう」

 別れの挨拶を済ませると、セシルは腕を解いた。
 続いて、無言でユリアの後ろに控えていたオレに目を向ける。

「……バンも。
 たくさん、ごめん」

「……」

 セシルはしばらくオレの応えを待ってから、踵を返した。
 その背に、オレは言った。

「約束は守れよ」

「え……」

 バッとセシルがこちらを振り返る。
 オレは肩を竦めた。

「何だよ、その顔。
 ユリアは取りに戻れって言ったんだ。そんで、お前は頷いた。
 2度と、うちの坊ちゃんを裏切るな。……次はねぇぞ」

 セシルは何か言おうと口をもごもごさせる。
 すると、その大きな目からボロッと涙がこぼれ落ちた。
 その肩をヴィンセントが促した。

「セシル。行くぞ」

「うん……」

 凹凸2つの影が馬車に吸い込まれていく。
 闇の中、星のきらめきを頼りに馬が走り出し、
 その背をオレとユリア、何人ものメイドが無言で見送った。

「バンさん。ありがとう」

 やがて、馬車の影が見えなくなると、
 ポツリとユリアが言った。

「……何が」

「いえ」

 ユリアがオレを振り返る。
 その柔らかな微笑みが、ふいに翳った。

 ……彼はオレと2人きりになるのを恐れていたのかもしれない。
 セシルたちがいる間は、なんとなく避けていられた話題を、
 オレが口にすると気付いていたから。

「なあ、ユリア」

「はい?」

「……話したいことがある。後で、部屋に行ってもいいか」

 ユリアの唇から短い溜息が落ちる。

「もちろんですよ」

 オレは知れず、自身の胸元を押さえていた。

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