人狼坊ちゃんの世話係

終わりなき行く末(2)

「バンさん……っ」

「オレは、お前みたいには思えねぇよ」

「彼にも事情があったんです」

「事情があるからって、他人を傷付けていいのか?」

「……僕は、傷ついていません」

 躊躇いつつも、ユリアは告げた。静かな声だった。
 オレはゆっくりと瞬きをして、彼を見返す。

 ……なんで、お前は笑ってられる?

 ユリアは自分が傷つくことを何とも思っていないようだった。
 まるで、それが宿命だとでも言うように。

「バンさんが僕を止めるためにケガをしたのは知っています。
 それについて、あなたが怒るのはもっともです。
 でも、あなたは僕のために怒ってくれているように見える」

 ユリアはオレの手を引くと、そっと両手で包み込んだ。

「あなたが怒る必要なんてないんです。
 僕はすっかり元通りですし……
 まあ、屋敷はちょっと壊れちゃいましたけど、やったのは僕ですしね」

 冗談めかして、肩を竦める。
 オレは何か言いたかったけれど、うまい言葉を見つけられなかった。
 胸が締め付けられて、意味もなく、自分が情けなくなった。    オレはユリアの手を退かした。 

「坊ちゃんが言うなら……使用人のオレは、従うしかねぇ。
 だけど……やっぱり許せねぇよ」

 呟いて、セシルへ鋭い眼差しを投げる。

「大事な恋人を殺されかけて、許せるかよ」

「バンさん……」

 ユリアの困ったような声。
 セシルにのっぴきなはない事情があるのだろうことも、予想がつく。
 だけど、どうしても……オレはこのささくれ立った気持ちを抑えられなかった。

「悪い。……しばらく外で頭冷やしてくる」

 ユリアの引き留める声を無視して、
 オレは部屋を飛び出した。   * * *

 扉の閉まる音が、やけに耳に残った。
 咄嗟に伸ばしかけた手は、行く当てを失い、僕は力なく握りしめる。

「……彼が言うことは、もっともだよ。
 ボクはそれだけのことをしたんだ」

 セシルが言った。
 扉から視線を外し、彼の方を見やれば、彼は今にも泣きそうな顔をしていた。

「本当にごめんなさい。
 ……ボクも、部屋に戻るよ」

「セシル……」

 肩を落とし、セシルはとぼとぼと部屋を出ていく。
 やがてヴィンセントさんと、僕の二人だけが残った空間には、
 束の間の、気まずい沈黙が落ちた。

「……俺も失礼する。色々とすまなかったな」

「ヴィンセントさん。待って下さい」

 踵を返そうとした彼に、僕は思いかけず声をかけていた。

「なんだ?」

「セシルは……」

 言いかけて、口を閉ざす。

 セシルは、僕が力に飲まれる前に言ったことを、彼にも伝えたのだろうか。
 もしも言っていないーー言うつもりもないーーのだとしたら、
 僕が口を挟むことではない。
 余計なお節介だ。けれど、それでも……

 ヴィンセントさんは忍耐強く言葉の続きを待ってくれる。
 それで、僕はやっと心を決めた。

 彼にだけは、知っていて欲しい。
 セシルの頼みを……彼の願いを本当の意味で叶えられるのは、
 ヴィンセントさんだけだから。

「セシルは……僕にあなたを死徒にして欲しいって、頼んできたんです」

「俺を……?」

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