人狼坊ちゃんの世話係

来訪者(4)

「なんなんだよ、アイツ! 下品だ!!」

 客室から案内のメイドが出て行くと、ボクは勢いよくベッドに飛び込んだ。

「籠絡するんじゃなかったのか?」

 ヴィンセントが荷物を解きながらそんなことをいう。
 ボクはキッと彼を睨めつけると、厚底の靴を脱ぎ捨てた。

「これから、ローラクするんだよ。
 あんな倫理観ユルユル男、ユリアに相応しくないでしょ」

 枕に顔を埋めてボヤく。

 予定通りに行くとはハナから思ってはいなかったからそれは別にいい。
 それより何より、ナチュラルに仲睦まじい様子を見せつけてきた2人に、
 いや、愛されていることを鼻にもかけないあの使用人に苛立ちが募る。

 ああ、もう……ムカつくムカつくムカつく!

「――ヴィンセント!」

「なんだよ」

「疲れた。足揉んで」

「はいはい」

 うつ伏せになって、足を投げ出す。
 ヴィンセントは大仰に溜息をつくと、ベッドに腰掛け、ボクの脹脛に触れた。

「……アイツ、めちゃくちゃ気に食わない。
 人間のクセに生意気だ」

 ヴィンセントのマッサージに、不快感が和らいでいくのを感じながら、
 ボクは吐き捨てた。

「あまり突っかかるなよ。あの男、厄介だぞ」

「なら、殺しちゃおうよ。適当な事故に見せかけてさ」

「簡単じゃないだろうな」

「なんで?」

「身のこなしが訓練されたソレだった。
 やるからには、それなりの準備がいる」

「なんでそんな弱気なこと言うのさ」

 振り仰ぎ、ボクは右手をズイと前に出す。

「準備なんていらないでしょ。ボクにはコレがあるんだから」

 右手の中指に輝く指輪を示せば、ヴィンセントは肩を竦めた。

「コレで眠らせちゃえば、後は煮るなり焼くなり好きに出来る」

「……あまり、その指輪を過信しない方がいい。
 どのくらいの効力があるか分からないんだ」

「今まで失敗したことなんてないじゃん」

「その舐めきった考えを改めろと言ってる。
 それに、恋人のありなしは目的には関係ないはずだろうが」

「……うざ」

 慎重な言に興が削がれて、ボクは再び枕につっ伏せた。

「……分かったよ。余計なことは考えず、まずは既成事実を作ることから始める。
 ユリアはとっても真面目そうだったし……
 ボクとも、エッチなことしたと思っちゃえば、ムシできなくなるでしょ」

 ヴィンセントの返事はない。
 彼は黙々とボクの腰を揉んでいる。

「ちょっと。応援してくれないの?」

「……うまくいくといいな」

「なに、その棒読み」

 ボクはマッサージする手を蹴り退けた。
 それから体を起こし、ヴィンセントの胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「……誰のせいでこうなってるの? 全部、お前のせいだよ?」

「分かっている」

 ヴィンセントの眉根がピクリと震える。でもそれだけだ。
 ボクはイラついて、鼻に皺を寄せた。

「分かってない。反省してたら、そんな態度取れない」

 低く唸って、掴んでいた胸ぐらを突き放す。

「お前のせいで、ボクは保護者を探さなきゃならないんだ。
 いい? お前があの時、ちゃんとやるべきことをやってたら、
 こんなことにはなってないんだよ?
 少しでも悪いと思うなら、全力でユリアとの仲を取り持つこと。分かった?」

「ああ」

 表情一つ変えないで、彼は頷いた。

 ヴィンセントのバカ。

 心の中で悪態をついて、ボクは再びベッドに寝転がる。
 ヴィンセントはボクの言うことだけ聞いてれば、許されると思っている。
 ホントに、バカだ。

「次は肩揉んで」

「……はいはい」

 優しく指先が触れる。
 指圧の心地良さに胸が高鳴って、ボクは視線を落とした。

「いつもよりも雑じゃない? もっと心を込めて揉んでよ」

「いつもと変わらない」

「絶対、違う。なんかイライラしてる。伝わってくるんだけど」

「苛立つ要素など、どこにもないだろう」

 言葉はぶっきら棒だけど、ヴィンセントのマッサージは驚くほど丁寧だ。
 ボクは重ねた手に顎を乗せて、吐息をこぼした。

「……あの男、絶対に別れさせてやる」

 ヴィンセントの言う通り、アイツがいてもいなくてもボクの目的に支障はない。
 でも、不穏分子には違いない。だから、排除する。
 絶対に失敗は許されないのだから。

-40p-