人狼坊ちゃんの世話係

心臓のない王(4)

* * *

『ここは僕の大事な秘密基地もありますから』

 いつだったか、ユリアが言っていた。

『ふふ、子供の頃からため込んだガラクタの宝庫です。
 屋敷の一室から、いつでも忍んで行けるように地下道も掘ったんですよ』

「あの時の道が、こんな時に役立つなんて」

 無事、屋敷に入り込んだ俺は注意深く廊下へと出る。
 カーテンは開け放たれた内部は、明るい日差しに満ちていた。

「……っ」

 ふいに、甲高い足音が聞こえた。
 廊下の陰に身を潜めれば、どこか慌てた様子の若い男たちが走ってくる。

 心臓を……

 そんな単語が聞こえてきた。

「……見つかったか」

 オレは目の前を横切ろうとした二人組のうちの一人に腕を伸ばし、引き寄せた。
 そのまま耳の後ろを拳で打つ。

「な、何者だ、貴様ッ……!」

 もう1人が振り返った。
 抜き身の剣が振るわれる前に、崩れ落ちた男を盾にして距離を詰める。

 そうして、短剣を喉仏に突きつけた。

「ぐっ……!」

「……お前らの獲物は何処にいる」

「貴様もヴァンパイアの仲間か……ッ」

「早く答えろ!」

 恐ろしい男の悲鳴が響いたのは、その時だ。

「なッ、た、隊長……!?」

「……もういい、分かった」

 男が声に気を取られた隙に、オレは彼の腹部を拳で打ち抜いた。

「がはっ……!」

「死にたくなきゃ、その男を連れてさっさとこの屋敷から離れろ」

 獣の声がする。
 屋敷に色濃く、死の気配が漂い始める……。

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