最果ての約束(4)
愕然とするオレに、
ユリアは真剣な様子で頷いた。
「そうですね。そうなりますね」
「クビ……」
足から力が抜け、オレはガクリとソファに腰を下ろす。
思い至る理由が……あり過ぎる。
例えば、昨日の夜、虐めすぎたこととか。
でも、ユリアのヤツ、ヒンヒン泣きながら気持ち良さそうにしてたじゃねーか。
いや、そうオレが思っていただけで、
実際は違ったのかもしれない。
「なんで、今なんだよ……」
そして、そういった不満が積み重なっていた……とか?
「叔父さんを説得するのに時間がかかったんです。もう数ヶ月前から考えてました」
「数ヶ月……」
オレはまじまじとユリアを見つめてから、
目線を落とした。
ユリアに嫌われてるなんて、
これっぽっちも考えたことがなかった。
が、クビと言うからには、そういうことなのだろう。
そもそも、旅行に連れ出して、1月とのもろもろのきっかけを作ったのはオレだ。
彼につらい過去を何度も思い出させて泣かせたのもオレだ。
極め付けに、何も知らない純粋な坊ちゃんに、
エロいことを仕込んだ。
少し考えただけで、
クビになるには十分な理由がこれだけある。
今まで側にいられたのが、奇跡だったのだ。
ユリアは世間を知らないから、オレなんかに入れ込んでしまったが…
オレは生まれも育ちも最底辺、
少し冷静になれば恋人として相応しくないのはわかることだ。
だから、オレはこの関係に終わりがくると知っていた。
ただちょっと、思っていたタイミングじゃなかっただけで。
……いや、違う。
ずっとこの関係が続けばいいと……オレは身の程知らずにも思ってしまっていた。
「あの、さ。クビにしようと思ったきっかけ、っつーか、理由っつーか……
その辺、聞きたいんだけど」
理由なんて聞いてどうするんだろう。
イヤな部分があるなら直すとでも言って、すがりつくつもりなのだろうか?
なんだか笑いたくなってくる。
ユリアのことになると、オレはどこまでも情けない男になれるらしい。
「理由……」
ユリアは目を伏せた。
それから、組んだ手をギュッと握りしめてから口を開いた。
「……結婚、しようと思ったからです」
「……」
ガラガラと日常が音を立てて崩れ落ちていくような感覚。
ハルに見合い話でもされたのか?
それなら、仕方ない。オレはここにいたらダメだ。
1月を倒した今、もうユリアに懸念はなく、
大手を奮って、良いところのお嬢さん(?)を嫁に迎えられるわけだし。
「……幸せになれよ、ユリア」
オレは無理やり口の端を持ち上げた。
ユリアのことが好きだ。
だから、オレは潔く身を引こう。
これだけ良くして貰ったんだ。クビになったって、感謝こそあれ、文句なんてない。
「バンさん?」
ユリアが訝しげにする。
オレは彼から目を逸らし、努めて明るい声で言った。
「明日には荷物まとめて出てくよ。
ああ、今日の仕事はちゃんとするから心配いらねえから」
「え、何を言って……」
「あ! っていうか、この場合、オレ、お前に心臓返さねぇとまずいよな!?
はは。悪い、悪い。そんな心配すんなって!
ちゃんと返すから」
「あの、バンさん」
「にしても、お前が家族持とうなんて、オレ、感動したよ。
本当男前になったな。
優しいだけの坊ちゃんが、こんな逞しくなっちまって……
大丈夫だ。お前なら幸せになれる。
嫁さん大事にしてやれよな!」
一息に告げ、オレはソファを立った。
「じゃあ。一度、部屋に戻るわ。
荷物とか処分しねーと」
「冗談ですよね?」
固い声が耳に届く。
オレは背を向けたまま、乾いた笑いを落とした。
「冗談でンなこと言えるかよ」
「本気で怒りますよ」
痛いほど肩を掴まれ、振り向かせられる。
ハッと見上げたユリアの顔は、かなり怒っていた。
「なんで、出て行こうとしてるんですか」
「いや、お前結婚するんだろ?
オレがいるわけにはいかねーって。
それとも愛人として囲うつも――」
「僕が結婚する相手は、あなたですよ!!」
「え……」
耳の奥がキーンとなるほど、
ユリアが大きな声で言った。
なんて言った?
ボクガケッコンスルアイテハ、
アナタデス――?
「お、オレ……!?」