人狼坊ちゃんの世話係

聖なる夜の贈り物(9)

* * *

「ん、ぁ……ふ、ぅ……」

 緩く勃ち上がったソコを、ユリアの大きな手が扱く。
 膝で両足を割るようにされているせいで、身じろぎ出来ずされるがままだ。
 彼を押しやろうとする手は情けないほど力がこもらない。

「ふふ、すぐに勃っちゃったね」

 ユリアはそう言って微笑むと、
 上下に手を動かしながら、オレの耳朶に口づけた。

「……ねえ、さっきはどうして僕の舐めたの?
 舐めたくなっちゃった?」

「そ、れは……んくっ……」

「でもさ、バンさん。
 舐めるだけ舐めて満足して、おしまいなんて無茶苦茶でしょ」

 唾液を塗り込めるように耳殻を舐められる。
 くちゅくちゅと水音が耳の中に入り込んできて、身体がくねった。

「……後ろ向いて、お尻突き出して。
 ほら。ご主人さまのお望み通り……コレで奥まで満たしてあげる」

 ユリアが、中途半端にはいていた下着を下ろして、
 反り立つ屹立を取り出した。

 知れず、ゴクリと喉が鳴る。
 とことん、この身体は快楽に……いや、ユリアに弱いらしい。
 身体の芯からじくじくと甘い疼きが広がっていく。

 ダメ押しとばかりに、ユリアはオレの敏感な竿の先端を親指の腹でグリグリ押した。
 息を飲む。尻穴がキュンキュンと収縮するのが自分でも分かった。

「あっ、は……」

「ここグリグリしてイッても、物足りないでしょ?
 ほら、早く。言うこと、聞いてよ……ご主人さま」

「なんで……オレが主人なのに、お前の方が偉そうにしてんだよ……」

「誰かさんに憧れているからかな」

 クスクスとユリアが笑う。

 オレは、チラリと湯船の方を見てから、
 おずおずと言われた通りにした。

「……良い子ですね、バンさんは」

 ちゅ、と髪に唇を押しつけてから、腰に手がかかった。
 グイ、と尻肉を押し拡げられる。
 熱い気配がヒタリと穴口に触れて――

「んぐっ……!」

 次の瞬間、パンッ! と、肌と肌がぶつかる乾いた音が立った。
 物凄い質量に最奥までを満たされ、その瞬間、頭が真っ白になる。

「あっ、あぁっ……!」

「しっかり立ってて、バンさん。
 ふにゃふにゃしてたら……いいとこに、当たらないよ?」

 果てたオレには構わず、ユリアは動き始めた。

「ちょ、ぁ、んぐっ……ふ、ぁ」

 イッてる。
 イッてるのに。

 ガクガクと膝が震えて立っていられない。
 湯気で白く曇った鏡に指先が線を描く。

 当たらないよ、じゃねぇ。
 隅々まで擦り上げられて、いい部分に当たらない訳がないのだ。

「ま、待て、ユリア、今、イッてる……から……っ!」

「バンさんも、僕がイッてるのに動いたことあったでしょ?」

 あった。あったけどっ!

「お仕置きだよ」

「ひっ、ぁっ……ああっ、あぁぁああっ……!」

「ねえ、ご主人さま。気持ちいいね?」

「はっ、あ……! あっ、あぁあ、やめ、そこ、はっ……!」

 腹の奥深くまで暴力的な熱に犯され、
 頭の中が沸騰する。

「またっ……また、イグ、からっ……」

「イッていいよ。ほら、思いっきりイッて……」

「く、そ……抜けって、言ってんだろー、がっ……」

「ふーん、いいの? 抜いて?
 こんなに絡みついてくるのに?」

 抽送の速度が落ちて、ゆっくりとユリアが腰を引く。

「あ……」

 唐突な物足りなさに、心臓がドクンと高鳴った。

「さっきまで、気持ち良さそうにお尻振ってたのに」

 もどかしさに視界が歪む。
 唇を引き結ぶと、ユリアの手がオレの顎を掴んで持ち上げた。

「バンさん。自分の顔、ちゃんと見てみなよ」

「な、に……」

「よだれ垂らして、気持ち良さそうにしてるじゃないですか」

 姿見の中から見つめ返してくる男の顔は、
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

 ユリアの言う通り、半開きの唇からは、だらしなくヨダレが垂れている。
 エロいことが大好きでたまらないとでも言うような、表情だった。

 鏡を通してユリアを目が合った。
 その瞬間、最奥まで貫かれてビクビクと身体が跳ねた。

「ねえ、いいの? 本当に?
 本当に、抜いちゃいますよ?」

 再び、ユリアがこれ以上なくゆっくりと腰を引く。
 ぬぷぅっと最奥から喪失感が広がって、オレは鏡に額を押しつけた。

「あっ、ぁ……」

 もう、イキたくない。

 だって、このまましたら……ワケ分かんなくなっちまう。
 ワケ分かんなくなったら、風呂どころじゃない。

 湯船に浸かって、泳いで、逆上せそうになったら水浴びて。
 鼻の下まで浸かって、何も考えないでぼうっとして。

 ああ、でも。

 ……イキたい。
 イキたくてたまらない。

 めちゃくちゃに揺すぶられて、
 何もかも分からなくなるくらい、ぶっ飛んでしまいたい。

 だけど。
 ああ、だけど。

「ユリア……も、無理、だから……」

 オレは掠れる声を振り絞ると、恋人を振り返った。

「ぬ、抜くな、その、まま……」

「もっと激しくしてもいい?」

「い、ぃ……して、いいからっ、
 めちゃくちゃにして、いいからっ、
 中でイキたい……っ」

「お任せ下さい、ご主人さま」

「ぁぐっ……ぅあ……っ!」

 先程とは比べようもない逞しい突き上げに、
 オレの理性は紙ペラのように吹き飛んだ。

「はあ、はぁっ、あ、あぁっ、んひっ、ぃ、あ」

 腹に当たるほど勃起したその先端は、
 栓が壊れたようにだらだらと白濁をこぼす。

 やば……ヤバイ……顔ヤバイ……

 鏡に映った自分の顔が、視界に入ってきて、
 そのあまりに酷い顔にヒヤリとした。
 こんな顔見られたら、百年の恋も冷める……

 でも、もうそんなの気にしていられなかった。

「ん、ぅう……あ……っ……!」

 長大な欲情に、ごりごりと最奥を抉られて、
 オレはひぃひぃ喘いで何度も果てる。

「可愛い……バンさん、凄く気持ち良さそうな顔してる……
 ずっと、ずっとしてたいね……」

「見ん、なよ……」

 鏡についた手に、顔を押し付けた。
 ゴツンゴツンと手の甲に額がぶつかる。

「もう……隠さないでくださいよ」

 そう言いながらも、ユリアはまたオレの顔を上向かせるようなマネはしなかった。
 彼もまた限界が迫ってきているようで、
 腰の動きは一定のリズムを刻み始めた。

「ぅ、くっ……も、僕も限界です……」

「はぁ、あっ、はぁ、はぁっ」

「バンさん、出すよ……
 奥に、全部……出すからねっ……」

 ひときわ大きな打擲音が浴室に響き渡る。

「ぅ、う……っ!」

 オレはガクガクと膝を震わせながら、
 ユリアの熱を受け止めた。

 奥が熱い。
 耳の奥で、ドクンドクンと心臓が跳ねている。

「熱い……」

 ユリアが、オレの腰から手を離すと、
 ズルズルと全身から力が抜けた。

「バンさん!?」

 慌てたように、ユリアに抱き支えられる。

「だ、大丈夫ですか?
 まだ1回しかしてないのに……
 あ! もしかして、逆上せたとか……?」

 逆上せるかよ……
 まだ、風呂には入ってねぇし。

「風呂……風呂入る……」

 オレはフラフラとユリアから離れると、
 身体を引きずるようにして、湯船に向かった。

「ちょ、ちょっと、待って。
 そんな状態で入ったら危ないですってば!」

「うるせ……入る、ん……だ……」

 浴槽に手をついた所で、意識が遠ざかる。

「わぁあ!? バンさん!?」

 ツルンと手が滑って、身体が傾く。
 そのままオレは、顔から湯船にダイブした。

 ……後で聞いたことに寄れば、
 オレはその後、ユリアに支えられながら、
 念願の風呂に入ったらしい。

 らしいというのは、オレが何一つ覚えていないからだ。

「また今度入りましょう」

 寝室のベッドで寝転がるオレの額に、
 水で濡らしたタオルを乗せながら、ユリアが言った。

「うぅ……」

 これからは出来る限りユリアを挑発しないしよう。
 オレはそう、心に固く誓ったのだった。


番外編『聖なる夜の贈り物』 おしまい。

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