陽だまりと地図(6)
* * *
バンさんに触れるのは、たまらなく心地良い。
でも、僕は……その後の時間も、凄く好きだ。
「バンさん、体拭きますよ」
「うー……」
裸のまま、半分以上寝ているバンさんの腕を引いて体を起こし、
汗ばむ頬に濡れたタオルを押し当てる。
「んっ……」
汗で張り付いた髪を退かして額を拭い、
首筋、項、鎖骨、背中……と、汗を拭っていく。
「腕、上げてください」
「あぁ…………」
僕の声に従い腕を上げようとしたバンさんが、バランスを崩す。
コテンと僕の方に倒れ込んできた彼は、
心地良さそうに目を閉じたまま、頬をすり寄せてきた。
「……甘えん坊さんですね」
「うるせ……」
気が付けば、こうして彼の体を清めることが習慣になっていた。
彼が汗をかいたまま寝てしまったら
気持ち悪いだろうな、と思って始めたことだけれど、
今では、この時間自体を愛している。
無防備にされるがままのバンさんは、凄く可愛い。
彼を支えるように抱きながら、タオルを押し当て、
時折、「好きだよ」と囁く。
「ん……俺も……好き……」
そうすると、彼は律儀にも答えてくれるのだ。
「ふ、ふふ……」
口元が緩んで、思わず好きが暴走しかける。
が、そこはなんとか耐えて、僕は彼の体を隅々まで清めた。
「おやすみなさい、バンさん」
僕自分も汗を流し、ベッドに戻る頃には、
バンさんはもうとっくに夢の中だ。
僕はベッドに入ると、
規則正しい寝息に耳を澄まし、彼の髪を撫でる。
バンさんは体を丸めて眠る。
寝ている時、親指を噛む癖がある。
そんな彼を見つめながら、
僕は彼を起こさないように胸の中で問い掛ける。
ねえ、バンさん。なんの夢を見てるの?
怖い夢は見ていない?
僕は夢の中でもあなたの側にいる?
「はは……なんだよ、それ」
僕は誰にともなくぼやいた。
夢の中でまで彼の側にいたいだなんて、
ちょっと度が過ぎていると思う。
でも、これが正直な気持ちだった。
もっと言えば、彼には仕事なんてして欲しくないし、
ずっと僕の腕の中にいて、僕だけを見ていて欲しい。
それは、とても仄暗い感情だ。
好きになって、愛されて、大事にし合って、
それだけで充分幸せだったはずなのに。
僕は日に日に貪欲になっていく。
「嫌だな……」
彼との距離が近付けば近付くほど、
僕の知らない彼がいるのだと思い知る。
ここへ来る前、バンさんはどんな人だったんだろう。
どんな仕事をして、家族や、友人はどんな人だったんだろう。
それから、恋人は……?
どうしようもないことなのに、
僕は彼の過去の全てに嫉妬しているし、
側にいなかった事実を恨めしく思う。
「…………好きだよ、バンさん」
僕はバンさんの隣に横になると、彼を抱き寄せた。
それから彼の首筋に顔を埋めて瞼を閉じた。
ドクンドクンと、彼の中から力強く鼓動する僕の心臓を感じる。
彼を生かす音だ。彼の全てを……支配している音だ。
それを思うと、たまらなく僕は嬉しくなって、
そんな自分に嫌悪して落ち込む。
嫌いにならないで、と彼に跪きたくなる。
「本当……どうかしてる……」
* * *
そんな醜い考えに囚われているせいだろう、
その日に見た夢は、とても嫌な……それでいてリアルなものだった。
灰にまみれて転がる。事切れた白狼と。
怒りに肩を震わせる叔父さんと。
金色の目をした……1月のヴァンパイア。