陽だまりと地図(5)
拳を握り締め、ユリアは力強く言い放った。
「あー……もう、そんな経ったのか」
人狼のことや、仕事ですっかり忘れていたが、
確かにそんな約束をしていた気がする。
「えっ? あれ!?
なんだか反応、薄くありませんか!?」
「いや、そんなことねぇけど」
「そんなことありますよ!
前のバンさんなら……
僕が誘ったら、凄くエッチな顔でニヤッてしてくれたのに!」
「そんな顔してたか……?」
多分にユリアの願望も入っている気がする。
「ってか、それで茶を一気飲みしたわけか」
「そりゃそうですよ。残したらもったいないじゃないですか。
せっかくバンさんが淹れてくれたのに……」
律儀なヤツだなあ、と感心していると、
ユリアはオレに歩み寄って、こちらの顔を覗き込むようにした。
「それよりも、ですよ。やっぱり何かおかしいです。
何処か心あらずと言いますか。
僕はこんなに楽しみにしてたのに……」
やがて彼は思案を巡らすようにしてから、
ハッと勢い良く顔を上げた。
「もっ、もしかして、僕に飽きちゃったんですか……!?」
「飽きてねぇよ」
「本当ですか? 楽しみにしてました?」
「してた、してた」
不安げにするユリアの頭を撫でてやるが、
彼は、ジトッとオレを見つめてくる。
「……凄く軽くないですか」
「いつもと変わんねえけど」
すっかり忘れていたなんて、口が裂けても言えない。
オレは曖昧に笑って、ポリポリと頭をかく。
すると、急に担ぎ上げられた。
「おわっ……! ちょ、ユリア!?」
「まあ……いいです。体に聞けば分かりますし」
彼は大股でベッドに向かうと、オレを放った。
「お、おい……?」
「今日はバンさんは横になっててください。
全部、僕がしますから」
ユリアがオレの体を跨ぐと、
ギシリとベッドが軋んだ音を立てた。
「ま、待て待て待て待て!」
急いたようにシャツへと伸ばされた手を、
オレは慌てて止めた。
「どうして待つの?……嫌?」
「嫌じゃねえよ。でも……」
ユリアの記憶は、人狼にダダ漏れだ。
ということは――……
「でも?」
鼻息荒く、ユリアが続きを促す。
オレは言葉に詰まった。
男娼時代の頃は、人前ですることなんて何度もあったし、
それを拒絶することもなかった。
むしろ金払いが良かった分、ノリノリでやってた気がする。
それなのに、今のオレは……なんというか、イヤだと思っている。
今更だ。ヤツの話しぶりから、今までのことは全部筒抜けだし、
なんなら、ヤツにヤられたこともある。
だけど、イヤだ。
……この感情は、なんなんだろう。
「やっぱり、嫌なんでしょう?」
ユリアがしゅんと眉根を下げる。
オレは彼から手を離すと、
枕を引っ張り寄せ、顔の上に乗せた。
「……これなら、いいぞ」
「え……」
ユリアが戸惑っているのが、声音で伝わってくる。
「ど、どうして顔隠すんですか!?」
「それは……」
「それは?」
「は…………恥ずかしい、から」
オレは考えた末に、告げた。
――ムリがある。
そんなことは自分で分かっている。
今まで、躊躇いなど皆無で、しゃぶりついていたのに、
急に羞恥心を訴え出すだなんて、
ますますユリアの疑いを深めてしまうに決まって――
「ば、ばばばばば、バンさん……!
どうしたんですか、そんな……そんな……っ、
可愛らしいことっ……!」
え?
「でも、でもですよ、そんなこと言われたら……
その枕、なんとしてでも、どかしたくなっちゃいますから……!」
「わぁあっ!?」
破く勢いでシャツのボタンを外され、ズボンを下着ごと引き抜かれた。
「安心してください。ムリにはしません」
はぁはぁと荒い呼吸が耳に届いて、オレはギクリとした。
たぶん、オレは……言葉の選択を誤った。
「任せてください。
恥ずかしいだなんて、思わないくらい……気持ち良くします!!」