人狼坊ちゃんの世話係

うたかたの(6)

* * *

 翌朝。

「そろそろ……起きねぇと……」

 燦々と照りつけてくる太陽の光を瞼の裏に感じて、
 オレはベッドで目を覚ました。

 体を起こせば、尻でぐちゅりと水音が立つ。

「やべ……中の、出さないで寝ちまった」

 書斎から寝室に移動した後も、イチャついていて、
 そのまま精根尽き果て、眠ってしまったらしい。

 尻穴を締めつつベッドを下りて、
 浴室へ向かおうとすれば、

「バンさん……? 何処に行くんですか?」

 隣で寝ていたユリアが目を開けて、腕を掴まれた。

「シャワー浴びるんだよ。
 もう昼間だし、仕事しねぇと」

「ええ、そんなぁ……
 もう少しだけ、ゴロゴロしましょうよ」

 寝ぼけ眼で甘えながら、
 ユリアがオレをベッドに引き込もうとする。

「いや、だから仕事だって――んンッ!」

 抱き締められたかと思うと、
 言葉を遮るように唇を塞がれた。

「こ、こら……起きるって言ってんだろっ」

「仕事は夜でもいいでしょ。
 僕も手伝いますから……今は傍にいてください」

 囁きとともに抱きしめてくる腕に力がこもる。
 太腿に押しつけられた熱さに、オレはゴクリと喉を鳴らした。

 ただの朝立ちだ。
 そう理解しながらも、ソコを意識すると頬が熱くなる。

「……なんでお前がオレの仕事を手伝うんだよ。
 い、意味分かんねぇから」

 平静を装い、腕の中から逃れようとすれば、
 こちらの心を見透かしたように、
 腰に回っていた手が、尻たぶを揉み、
 やがて後孔に指を突き入れられた。

「っ……」

「なんで、こんな……奥までぐちゅぐちゅ……
 ああ、そっか。昨日、中のお掃除しないで
 寝ちゃいましたもんね……」

「やめっ……い、い加減、怒るぞ……っ」

 中をかき回す指が、1本から2本、3本に増えていく。

「凄い音……
 ねえ、バンさん。この音、聞こえます?」

 激しく指を出し入れして、
 わざと音を立てるユリアの手を、オレはキツく掴み上げた。

「ぅ……聞けよっ!
 オレは恋人の前にお前の世話係なんだってばっ……!」

「でも、バンさん勃ってますよ。
 仕事するにしても、
 スッキリしてからの方がいいんじゃないですか?」

「あっ……!」

 こちらの制止を振り切り、ユリアの指が心地良い部分を容赦なくこね回す。
 オレは全身から力が抜けるのを感じながら、
 彼の胸に顔を押し付けた。

「くぅ……」

「中、もうビクビクしてる……
 昨日のじゃ足りなかったのかな。
 ごめんね、満足させてあげられなくて」

「ば、か……やろっ……」

 足りなかったなんて、あり得ない。

 こちとら、全身気怠くて、腰が痛くて、
 体を起こすのも億劫なのだ。

「はぁ、 ぁ、はぁ、はぁ……クソ……」

「満足出来るまで、頑張りますから」

「が、んばらなくて、いいっつの……!」

 ユリアの指の動きは、的確だった。
 的確に、オレの理性をとろかしていく。

「バンさん……顔あげて」

「ん……」

「ふふ、可愛い……
 目、とろんとしちゃったね」

 ユリアが覆い被さってきたかと思うと、
 数え切れないほどのキスが降ってきた。

「……ぁ」

 やがて中に押し入ってきた灼熱に、
 オレの理性は、嵐の日に舞う落ち葉のように舞い上がる。

 オレは粉々の理性を掻き集めながら、
 この後のことに思いを馳せた。

 ……終わったら、シャワー浴びて。
 今日こそバラ園の手入れをして。
 屋敷の掃除をして、それから、それから……

* * *

「……今、何時だ」

 ベッドで目を覚ましたオレは、
 這うようにして、床に下りた。

 昼頃に起きたはずだが、
 求められるまま抱かれて、飯を食って、
 『キリよく夜から仕事しよう』となって、
 ゴロゴロして……更にイチャついて。
 で、また、ヘトヘトになって寝てしまった。

 窓の外を見やれば、東の空が白んでいる。
 とっくに一日は終わってしまったようだ。

 オレは頭を抱えた。

 ここ数ヶ月、客をとっていた頃よりも、
 淫らな毎日を送っている気がする。

 このままでは……ダメだ。

 ユリアにエロいことをしこたま仕込んだ張本人が
 言うことではないとは分かっているが……

 正直なところ、ちゃんとしないと、とは何度も思っていた。
 でも、すぐに落ち着く、止めようと本気で思えばいつでも止められる
 と、思ってた。

 セックスなんて腐るほどしてきた自分が、
 ハマるわけがない、と。

 蓋を開けてみればどうだ。
 見事に溺れている。

『一緒にいろんなことをして楽しみたいというか……  愛し合いたいんです』

 ふいにユリアの言葉が脳裏を過った。

 ユリアに触れるのは気持ちいいし、幸せだ。
 だが、セックスしかしないのは、
 もったいない気もする。

 ……というか、オレ、仕事してなくねぇか?

 そういえば、修繕中だった屋敷もすっかり元通りになっている。

 あ、ヤバイ。
 フツーならこれ、クビだ。

「いや、マジで……
 ノリノリでエッチしてる場合じゃねぇ」

 床に座り込んでいたオレは、両頬をぴしゃりと叩くと立ち上がった。
 屋敷を追い出されていないのは幸運でしかない。

 そもそも大した仕事もしていないのに、
 ここ最近は、バラ園の世話すらメイドたちに任せてしまっている……

 早く元の生活リズムを取り戻さなければ。
 床に散らばっていた服を集め、素早くシャワーを浴びる。
 着替え終わった頃、ユリアが目を覚ました。

「バンさん? 今日は早いですね。
 おはようございます……」

「おはよう」

 挨拶を返すと、ユリアがおねだりするように唇を突き出した。

「……なんだよ」

「おはようのキスしてください」

「しない」

「え……?」

 ユリアがきょとんとする。
 オレは心を鬼にして、口を開いた。

「キスだけじゃねぇ。
 しばらく……エッチなことはしない」

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