このクズ野郎。俺と一緒に死んでくれ。

処女喪失(2)

 鋭い眼差しで俺を見やり、彼はガムテープでグルグル巻きの胸部を指さした。

「こ、これは……」

 恐怖と混乱が胸に去来して、うまく言葉を紡げない。
 棒立ちする俺に、貴文はクツクツと意地悪く笑った。

「今更、隠すとか不可能だからな。全然、潰れてないし。
 ……んで。お前、いつから女だったわけ?」

 速攻でバレた。
 それでも答えるのを渋っていると、
 殿様が帯をグルグル解くみたいに、貴文は俺のガムテープを外した。

 白シャツの下に隠しようのない豊満な胸が現れる。

「いつからって……」

「昨日までは、そんなもんなかった。だろ? 俺の目は誤魔化せねえ」

 俺は必死で言い訳を考えた。
 が、この場をうまく切り抜ける方法なんて簡単には浮かんだりはしない。
 そんな風に理性的に物事を考えられる人間なら、
 そもそも学校に来たりはしなかった。

 俺は大仰に溜息をつくと、掠れる声を絞り出した。

「……今朝から。朝、目が覚めたらこんな体になってた」

「……まぢかよ」

 大きな手が、無遠慮に俺の胸を鷲掴む。

「うあっ……」

「まぢでくっ付いてっし」

 続いて、なんの脈絡もなく彼はやらしく揉み始める。

「……っ! 揉むなよ!」

「揉むだろ。こんだけ立派な乳だぞ。なかなかねえし」

 貴文はすげーすげーとしきりに口にして、手を動かしている。

(気持ちは分からないでもないけど)

 今朝、俺も全く同じことをした。
 にしても、自分でするのと他人にされるのとでは全然意味合いが違ってくる。

「いい加減にしてくれ!」

 なんだかゾワゾワしてきて、俺は彼の手を力一杯振りほどいた。
 ついで壁に体をくっつけ、背を向ける。

「なあ。それ、ホルモン異常とかか?
 俺、聞いたことあるぞ。胸が膨らむ男もいるって」

「……それとは違うと思う」

 ホルモン異常だとしても、一晩でここまで胸が膨らむなんてありえないだろうし、
 何よりちんこが消えるわけがない。

 そんなことが起こりうるなら、性転換手術なんていらないだろう。

「違う? 何でだよ?」

「それは……」

「ってか、下はどうなってんだ?」

「ひゃっ……!」

 壁に頭を押しつけられたかと思うと、ベルトを抜かた。
 あっという間にズボンを引き下ろされる。
 咄嗟にボクサーパンツを掴んだお陰で、下半身を露出せずには済んだが……。

「なっ、何してっ……」

「ただの確認だよ」

 素っ気なく言って、貴文が俺のパンツをグイグイ引っ張る。

「わ、わわ、分かった! 答える! 答えるから離してくれ!  ――ないんだよ!」

 答えた声は、悲鳴に近かった。

「ない? 下、ついてねぇのか?」

「そうだよ! もういいだろ!?」

「よくねぇ。気になるじゃん。ないなら、お前の下どうなってんだよ」

「どうって……分からないよ」

 怖くて確認なんてしていない。
 極力水を飲まないようにして、朝から一度もトイレに行っていないのだ。

「見てないのか? 自分の体だろ。じゃあ、ないかどうかも分かんねえじゃん」

「ない。それは確かだよ。貴文だって、男なら分かるだろ」

「んー……まあ、確かに? ってか、お前、トイレは?」

「行ってない。仕方ないだろ。怖くて……」

「じゃ、なおさら確認させろ」

「だから引っ張るなって!」

「分からないままのが困るだろーが。
 一生トイレから逃げ続けるわけにもいかねーし。それに、何より、俺が気になる」

 貴文には関係ない。気になられても困る。俺の体の問題だ。

 そう言うべきなのに、俺は声が出なかった。
 貴文が俺の秘部を暴くと言う。
 暴かれて、それから、貴文はどうするつもりだ? 俺を笑う?

 それとも――……

「ほら。足開けよ」

 貴文がしゃがみ込む。

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