人狼坊ちゃんの世話係

別れの詩(3)

 横たえた彼に覆い被さり、性急に唇を塞ぐ。

「ん、んんっ……ユリア……っ」

 シャツを乱し、露わになった肌を撫でた。
 久々に触れる愛する人の肌は、熱く、蕩けるようだった。

 息を吸うと、ほんのりと爽やかな汗の香りが鼻腔をつく。

「好きだよ、バンさん」

「うん……」

 耳朶をはみ囁けば、バンさんの頬が赤く染まった。
 彼の中心はズボンの上からでも分かるくらい、固く反り立っていて心が躍る。

 僕は逸る気持ちを抑えながら、自分のシャツを脱ぎ捨てた。
 ふいにバンさんの手が僕の胸元に触れたのは、そんな時だ。

「どうかしましたか?」

「逞しくなったなって」

「そうかな」

「そうだよ」

 バンさんは、感慨深そうに僕の胸をペタペタと触った。
 アイツに比べたら薄いくらいだと思うんだけど、
 でも、褒められて嫌な気はしない。
 僕は小さく微笑んで鼻の頭を指先でかいた。

「惚れ直した?」

「そうな」

 バンさんが、苦笑する。

 つられて口の端を持ち上げた僕は、
 再び彼の唇に吸い付いた。

 そっと触れて、角度を変えて、
 唇を割って舌を絡め取る。
 耳を指先でくすぐってから、首筋、肩口と確かめるように触れていく。
 やがて、僕の指はバンさんの右肩ーーうっすらと残る噛み痕に辿り着いた。

 僕の中で薄らいでいくアイツを思う。

 あれほど憎くて、苛立たせられた存在なのに、
 失うと思うと、胸に穴が空いたように痛い。

 どうしたら、アイツと分かり合えたんだろう。
 アイツは自分だったものなのに。誰よりも近い存在なのに。

 ねえ。

 呼びかけても応えはない。

 どちらかが消えるかどうかでしか、僕らの問題は解決できないの?
 本当にそれしかないの?

 僕は続けた。

 僕はそうは思わないんだ。
 でも、それを証明する材料も……時間も、なくて。

 ひとつがふたつになって、お互いに変質して、
 アイツは『もうひとつには戻れない』と言っていた。
 確かに、ひとつの身体にふたつの人格なんて不安定だし、普通じゃない。

 だから、アイツが身を引いた。
 全ては1月を倒すために。バンさんが幸せになれるように。

 アイツはそう思い込んでいた。

 僕は、まだ納得できない。
 これからも一生しないと思う。

 お互い、勝手な意見を押し付け合っている。
 そういう意味では、僕らは同じだ。

「ユリア?」

 声に我に返れば、バンさんが僕を見上げて心配そうにしていた。

「……ごめん、何でもないよ」

 バンさんの足の間に身体を滑り込ませて、彼を抱きしめる。

 何に気を取られていたのか、バンさんは訊かなかった。

 僕は一つ吐息をこぼしてから、彼の首の付け根を甘噛みし、
 舌先で鎖骨をなぞり、胸、脇腹とキスを落とした。

 ズボンを下着ごと引き下ろして、床に放る。
 ついで、僕は気恥ずかしそうに顔を背けるバンさんを見つめた。

「な、んだよ……?」

「見てちゃダメですか?」

「……ダメ」

「え、どうして」

「そんなん……
 …………内緒」

「なんですかそれ」

 軽口を叩きながら、僕はバンさんの屹立を握りしめて、ゆっくりと扱き立てる。

「んっ、く……」

「バンさん……」

 顔を覗き込むと、彼は瞼を閉じた。

「ん、んんっ……」

 唇が腫れるほど僕らは何度も淫らなキスをした。

「ぁうっ……あっ、は、ぁっ」

「可愛い……いつもよりも、敏感ですね」

「当たり前だろ。久々なんだから……」

「久々なだけ?」

 僕は、バンさんの細い両の手首を彼の頭上で掴む。

「おい?」

 戸惑う彼を見下ろしながら、屹立の隘路を親指の腹で優しく撫でた。
 滲んだ先走りを塗り込めるようにしたり、竿を扱いたりを交互に繰り返す。

「あっ、あぅ……ふ、はぁ、はぁ、あっ、はぁ、はぁ……」

 バンさんの濡れた唇が戦慄く。
 次第に呼吸が荒くなっていく。

 華奢な身体に汗が滲むのを、僕はとても色っぽいと思った。

「も、いいから……挿れろよ……」

「まだ解してませんよ」

「このままだと、イッちまうから……
 イクなら……お前ので、イきたいし……」

-203p-