人狼坊ちゃんの世話係

聖なる夜の贈り物(7)

「なっ、おま、言ったろ!?
 オレは1人で入るって!!」

 オレの言葉に、ユリアは憮然とした表情を浮かべる。

「僕はお風呂には入りませんよ。洗うのを手伝いに来ただけです。
 何故なら、あなたの世話係ですから!」

「……世話係? 本当か?」

 オレはユリアをじと目で見た。

 絶対あれだろ?
 体洗いますよ~からーの、エロいことする流れだろ、これ。

「む……何ですか、その目は。
 何を疑ってるんですか」

「いやさ、だって……」

 束の間の沈黙。

 やがて、オレは大仰に溜息をつくと、
 風呂椅子に座り直し、前を向いた。

「……何でもねーよ」

 今日はユリアの世話になるって話だったのに、
 着替えくらいしか、彼は手伝わなかったし。

 だから少しくらいはイチャついてもいいと思ったのだ。

「じゃあ、よろしく頼む」

「はい! では、失礼します」

 石鹸をつけたタオルを手渡すと、
 ユリアはそっとそれをオレの背中に当てて、洗い始めた。

「痛くないですか?」

「全然。もっとゴシゴシしていーぞ」

「分かりました」

 一生懸命に洗ってくれている気配がする。

 ふと顔を上げたオレは、
 目の前に姿見があるのを思い出した。

 見れば、鏡の中でユリアがニコニコしながら、
 オレの貧相な体を洗っている。

 その眼差しはとても優しくて、
 オレは目線を逸らした。……なんだか、気恥ずかしくなってしまったのだ。

「腕洗いますよ」

「……おう」

 彼はオレの腕を取った。

 脇の下を洗ってから、指の間まで懇切丁寧に洗ってくれる。
 それから泡を流すと、ユリアがオレの前に移動してきた。

「バンさん、顔上げて」

「あ、ああ」

 首、続いて鎖骨、胸、腹……

「足、僕の膝に乗せてください」

 オレの前で膝を立て、ユリアが言った。

「ズボン濡れるだろ」

「今更だよ」

 それもそうかもしれない。
 オレは股間をタオルで隠したまま、ユリアの膝に足を乗せた。

「ふふ。足の爪、伸びてますよ。削らないと」

 足を洗いながら、ユリアが小さく笑う。

「ついつい忘れちまうんだよな」

「ちゃんとしないと怪我しますよ?」

「なんだ。てっきり僕が切りますって言うと思ったんだけど」

「え、イヤですよ。
 こんなに可愛い爪なのに、僕のせいで深爪とかしちゃったら怖いです」

「可愛いってなあ……」

 小さい頃、ロクなものを食べていなかったせいで、
 オレの爪はボロボロだ。
 小指の爪なんて、僅かしか伸びていない。

「小さくて細くて、凄く可愛いですよ」

「……まあ、褒め言葉として受け取っておくよ」

 彼にそう見えるのなら、もうそれでいいやと思うことにした。

 足の裏に続いて、ふくらはぎ、膝、膝裏、
 太腿と次第にユリアの手が上に移動する。

 やがて、股間を覆うタオルのすぐ下まで手が届いた。

「んっ……」

 ソコに触れるか触れないかの内股を、
 泡まみれのタオルが行ったり来たりする。
 思わず鼻から吐息がこぼれて、オレはハッとしてユリアを見た。

 視線が一瞬、交錯する。
 でもそれだけだ。
 彼は立ち上がると、桶を引き寄せた。

「泡、流しますね」

 そう言って、お湯を汲んで戻ってくる。
 それからオレについていた泡を綺麗さっぱり流すと、
 ユリアは額を拭った。

「ふぅ。おしまいです。お疲れさまでした」

 オレはまじまじと彼を見上げる。

「本当に……洗うだけ?」

「はい?」

「……てっきりお前も風呂に入るって言い出すのかと」

「初めに言ったじゃないですか。
 僕は入らないって。洗いに来ただけですよ」

 本気か? 本気で洗うだけで終わりなのか?

 ユリアはタオルを濯いで、
 それをオレに差し出すと口を開いた。

「それに、バンさん……
 ずっとお風呂のこと、使用人には分を越えたものだって避けてたでしょ?
 でも、入りたいって言ってくれた。
 それって相当、興味があったからでしょ?
 なら1人でゆっくりしたいんだろうなって」

「……」

「バンさん?」

「あ、いや……」

 その通りだ。その通りなんだが。
 オレはなんとも言えない気持ちで、差し出されたタオルを受け取った。

「あ……ありがと、な」

「どういたしまして」

 ユリアはニコリと口の端を持ち上げると、
 踵を返した。

 オレはタオルを握り締めたまま、
 浴室を出て行こうとする背中を見つめる。

 マジで何もしないで出てくのか?

 いつも何処かれ構わず発情しているくせに。
 風呂場で、身体まで洗っておいて、
 本気の本気で何もしないつもりか?

 気遣ってくれているのは分かる。
 それは、とてもありがたいことだと思う。

 が、しかし。

 釈然としねえ!!

「ユリア!」

 オレは、気がつけばユリアを呼んでいた。

「どうかしましたか?」

「ちょっと来い」

「え、なんで」

「なんでもだよ! 早く来い!
 今はオレが主人だろ!?」

 戸惑った様子で、ユリアが戻ってくる。
 そんな彼の股間を、オレは問答無用で鷲掴んだ。

「わひゃっ!?」

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