ファミリア・ラプソディア

紙と水(9)

「それ……は……」

 どこに何をするものなんだ……?
 細さ的にお尻じゃない気がする。
 じゃあ、一体――

「んんっ」

 濡れそぼった肉竿をニャン太さんに扱かれた。
 更にローションを加えられ、先端の隘路を重点的に刺激される。

 後孔がヒクヒク震え、咥え込んでいたディルドをキツく締め付ける。
 甘い疼きが広がり、ふにゃりと萎んでいたソコが微かに気力を持ち直した。
 と、彼は類さんからその黒くて細い棒を受け取った。

 ま、まさか……え、嘘だろ……?

「ゆっくり深呼吸して」

 脱力しているせいで制止するという考えがなかった。ハッとした時には、ソレはすでに肉竿の先端に潜り込んでいて息を飲む。

 言葉にならない痛みと嫌悪感に、「うっ」っと呻き声が漏れた。

「力抜け、伝。大丈夫。怖くないから」

「はぁ……はぁ……る、類さん……」

 類さんの服の裾を握りしめ、僕は恐怖で身体を強張らせながら、徐々に屹立の中へと埋まっていく棒を見つめた。

「……ほら、もう半分入ったよ」

 怖くて声も出ない。
 歯を食いしばると、類さんの指先に唇をこじ開けられた。
 舌の表面をそっと撫でられ、意識が口中と後孔と、陰茎の間を行ったり来たりする。

「そろそろ……」

 ニャン太さんの言葉が終わらないうちに、僕はビクリと身体を跳ねさせた。

「あっ……!」    見開いた目から涙が散った。
 棒の先端が無防備なしこりに到達し、針のように鋭い快感が脳天を突き抜ける。

わななく唇から、自分のものとは思えない声が迸った。

「ああぁっ! や、ダメでっ……そ、そこ、ツンツンしないでくださいっ……あ、ぁあっ、あぁあっ!」

 激烈な悦楽だった。
 僕は今までの行為がいかに優しく、穏やかなものだったのか思い知る。

 1度その棒を弾かれただけで、視界がグラついた。理性が爆ぜてとけだし、世界がひび割れたかと思った。

 トン、トントン、トン。  ニャン太さんが指先で優しく棒の先を弾く。

「類さ……これ、これ怖いっ……身体、バラバラになっちゃいます……っ」

 痛くて怖くて、しかしそれを易々とひっくり返す凶暴な衝撃。
 陰茎に通された棒をそっとタッチされる度に、僕は悲鳴を上げて絶頂に飛んだ。

「類さん……助けて、苦しっ……!」

「……やめる?」

 ニャン太さんの手が、ズルリと棒を持ち上げる。僕は顔をくしゃりとさせると、首を振って類さんにしがみつき、子供のように泣きじゃくった。

「いや……いやです……抜かないで……っ」

 やめてほしい。抜いて欲しい。
 早く開放されたくてたまらない、それなのに何故か唇は逆のことを訴える。

 まるで身体を悦びに乗っ取られてしまったかのように、貪欲に、凶悪に、高みを求めている。

 類さんが僕の髪をそっと掻き上げ、汗ばむ額に唇を押し付けてきた。
 次いで、呼吸を奪うかのようなキスに僕は無我夢中で応えた。

 トン、トントン、と陰茎への刺激が再開し、僕はくぐもった声で喘ぎながら舌を絡める。

 酸欠で頭がフワフワした。
 キスの合間に、僕は大きく口を開けて息を吸う。まるで溺れているみたいだった。

「かわいい……ああもう、かわいいねえ……」

 類さんの唇から解放されると、すかさずニャン太さんが覆い被さってきた。
 頬に、こめかみに、優しいキスが降る。

「ん、ニャン太さ……」

 彼は舌先で僕の涙を拭った。
 それからどちらからともなく舌を絡めた。

 強ばっていた身体から次第に力が抜けていく。

 愛おしげに頬を包み込まれた。
 僕は彼の背に手を回した。だらしなく開いた足の間に小柄な身体が滑り込んできて、熱く固い感触が当たる。

「……伝。ニャン太とキスし過ぎ」

 背中に回した手を引っ張られた。
 ニャン太さんの唇が離れる。

「あれ? 嫉妬?」

「うるせ。……そんなとこだよ」

 顎を掴まれ、今度は類さんにキスをされた。

「んー、んっ、んんっ」

「愛してるよ、伝」

「ボクも……デンデンのこと、大好きだよ」

「は、ぁう、僕も……類さ……ニャン太さ……」

 何度も何度も唇を重ねた。舌を擦り合わせ、唾液を啜った。
 ふたりで、3人で、唇がヒリヒリするほどキスを繰り返した。

 やがて、身体も意識もグズグズにとろけた頃、お尻に触れる手があった。

「そろそろオモチャおしまいにしよっか」

 ぐちゅうっと後孔で水音がたったかと思うと、肉道を埋めていたオモチャを一気に引き抜かれる。

「ぁ――は、ぅぅうっ!」

 狂おしいまでの喪失感に襲われて、腰がむせび泣くように震えた。

「あ、な、なんで……」

「抜かないと類ちゃんの入らないよ?」

 言って、ニャン太さんが優しく僕の頭を撫でる。

「……お前が挿れんじゃねぇの」

「挿れたいよ……めちゃめちゃ」

 ニャン太さんは、恨めしげに呟いた。

「……でもさ、していいかどうか聞き忘れちゃったんだよ。もしもデンデンがお尻は類ちゃんだけって思ってたら気持ち無視することになっちゃうし。意思確認……大事でしょ?」

「こんだけやっといて?」

「オモチャとチン×ンは別だよ。ねー?デンデン」

「ふぇ……?」

 会話の言葉をうまく拾い集められず、理解が追いつかない。
 でも、頬を、頭を撫でる彼の手はとても心地良くて、僕はうっとりと目を閉じる。

「そういうわけで……」

 ニャン太さんは僕の頭上の方に移動した。
 脇の下に手が潜り込んできたかと思えば、彼は僕の身体を力強く抱き起こす。

 汗ばんだ身体が背中に触れた。

「ニャン太さん……?」

 訝しげにすれば、首筋にちゅっとキスが落ちた。

「……類ちゃんに、どうして欲しいのか言ってみよっか」

 どうして欲しい?
 ぼやぼやした頭に、ゆっくりと言葉が降ってくる。
 ……そんなの、決まっている。

「おい……ニャン太……」

「ちゃんと言わないと、お預けくらっちゃうよ?……それとも、デンデンはたくさんイッたし、このままおしまいにしても良かったりするのかな」

 僕はフルフルと首を左右に振った。

「類さんの……中、欲しいです……」

 掠れる声を振り絞る。
 言葉にすると、もうそれしか考えられなかった。

「挿れるだけでいいの?」

 僕は再び首を振った。

 挿れて、いつもみたいに激しく揺さぶって欲しい。
 前も後ろもわからなくなるくらい、めちゃくちゃにして欲しい。

「類さん、僕……」

 口を開けば、背後から両足を抱えるようにされた。

「あっ……!」

 足を左右に押し広げられ、ローションやら白濁やら、汗やらでベタベタに汚れた局部が露わにされる。

 外気に触れた穴口がはしたなくヒクついているのが自分でもわかって、今にも消えてしまいたくなるほど恥ずかしい。

「や、やめ……ニャン太さ……」

「どこに、どうして欲しいのか……頑張って、言ってみよ?」

 軽いキスに続いて、耳朶を舐め上げられた。
 僕は浅く吐息をこぼし、濡れた眼差しで類さんを見た。

「お……お願いします……類さん……」

 ニャン太さんが励ますように耳にキスをしてくる。
 僕は荒い呼吸を繰り返してから、声を振り絞った。

「あ……あなたので……奥、気持ち良く……なりたい……」

「良くできました」

 ニャン太さんに頬ズリされる。
 一方、類さんは髪を掻き上げると大きな溜息をついた。

「ニャン太。お前、伝になんてこと言わせてんだ……」

「……あれ?萎えた?」

「……ンなわけねぇから参ってんだよ」

 言って、彼は僕との距離をぐっと詰めると耳朶に囁いた。

「挿れるぞ、伝」

 ニャン太さんの手が離れる。
 腰を引かれたかと思えば、グッ、と後孔に熱く隆起したものが触れた。

 押し入ってくる、力強い圧迫感。

「ふぁ……っ」

 僕はすすり泣いて背をしならせた。

「あ、あぁっ、あああ……っ!」

 一息に最奥を突き上げられ、身体が内部から燃え上がる。

「や、ば……中、とろけてる……っ」

 類さんは緩やかに腰を動かしながら、歯を食いしばった。
 その微かな震えにすら昂ぶった身体には心地良く、反応してしまう。

「前もツンツンしようね」

 ニャン太さんは類さんの頬にキスをしてから、僕の足の間に手を伸ばした。

「ひっ……あ、ああ、あっ……!」

 快楽のしこりを前と後ろから同時に攻められ、僕は息も絶え絶えになって胸を喘がせた。
 半開きの唇から溢れた唾液が顎を伝う。晒した喉に類さんが噛みつく。

 夥しいローションの水音、肌と肌がぶつかり合う乾いた音、ギシギシと軋むベッドの音、それらに荒々しい呼吸音が混ざり合って、頭の中をとろかせていく。

「あっ、はっ、あぁっ……う、ぅ、いい……きもち、いい……っ」

 くるおしい快楽に身を捩れば、ふと、視界の端にニャン太さんの下腹部が映った。
 うっすらと下着が濡れている。僕は知れず雄々しく反り立つソコ手を伸ばした。

「んっ、どしたの……?」

「……伝。ニャン太も気持ち良くしてやれる?」

 問いかけに僕は頷いた。

 そうするのが一番自然に思われたし……したいとも思った。

「……じゃあ、手でして?」

 ニャン太さんは触りやすいように移動すると、パンツをズリ下げ腰を落とし、僕の手を足の間に導いた。
 鼻先を掠めるボディソープと汗の香り。
 僕はドクドクと脈動するソコを握り締め――パク、と先端を口に含む。

「わっ、ちょ……デンデンッ!?」

 ニャン太さんの身体が強張った。
 引けた屹立を僕は舌を伸ばして追った。

「裏筋舐めてやって。ニャン太、ソコ好きだから」

「も、類ちゃん……そんなこと、言わなくていいよ……あぅ」

 手がそっと僕の髪を撫でる。

「デンデンのお口の中……凄いねっとりしてる……はぁ、凄く気持ちいいよ……」

 だんだんと彼の腰が揺れ始め、かと思えば、躊躇いがちに後頭部を押さえられた。

「……ごめんね、ちょっとだけ奥挿れさせて」

「んぐっ」

「苦しい……?」

 首を振る。

「じゃあ、このまま……少しだけ」

 ニャン太さんが先ほどよりも大胆に動き始める。

 苦しくないと言えば嘘になるが、不思議と気持ちはますます高揚した。
 被虐心を煽られるというか。そんな自分の心の動きに戸惑う。

 ……いや。  もうさすがに自覚していた。僕は――

「中、すげぇ締まった……伝ってもしかしなくても酷くされるの好き?」

 僕は頷く代わりに唾液を飲み込んだ。

 類さんが言うことは正しい。僕は……僕は酷くされるのが好きだ。
 この間、自慰行為を見せつけた時も感じたけれど……たぶん、僕はヘンタイなんだと思う。

「本当に? こんな、前も後ろも……口もいっぱいにして、デンデン気持ち良くなっちゃうの?」

「き、らいに……なりまふか……?」

 もごもごと不明瞭な声で尋ねれば、

「なるわけねぇだろ」「なるわけないでしょ」

 ふたりは憮然とした様子で声をハモらせた。

「……とびきり甘くイジメてやる」

「うん……たくさん気持ち良くなろうね」

「んンッ……!」

 類さんの腰使いが激しさを増す。
 目の前がスパークして、僕は軽々と高みへと放られた。

 絶頂に次ぐ絶頂。

 しかし栓をされているせいで、射精はできない。
 張り詰めた肉竿の隘路から、だらだらと生温かなものが溢れるのみだ。
 それが苦しくて、切なくて、思い切り全てを出し切りたくて悩ましく、一層……心地良かった。

「デンデンって、お口小さいんだね……とろけた顔で頬張って……はぁ、頭、クラクラしてきた……」

 ニャン太さんの手が愛おしげに僕の頬をくすぐる。

「ね、そろそろ出したい……?」

「は、はひ……」

「えへへ、ボクも出そう……」

 ニャン太さんが腰を引く。
 と、類さんの熱が中から抜けた。

「伝、うつ伏せになろうか」

 意図を察してその通りにすると、僕は深々とニャン太さんの屹立を咥え込んだ。

「ちょっ、類ちゃ……っ」

「こっちのが、舐めやすいだろ?」

「は、ぁ、ダメだって……デンデン、口離して……っ」

 覆い被さってきた類さんが再び最奥を突き上げてくる。

「ホント、もう限界で……このままだと、口の中に、出しちゃうからっ……」

「イかせてやれよ、伝」

 類さんは器用に僕の屹立に手を回した。
 隘路を塞ぐ棒を押し込んだかと思えば、続いて一気に引き抜かれる。

 雷のような快感が脳天を突き抜け、僕は喉奥で傘張る先端を締め付けた。
 グッと後頭部を押さえつけられる。

「――っ、ごめん、ごめんねっ……」

「キツ……っ」

 類さんの小さな呻き声が鼓膜を打つ。

 その瞬間、頭が真っ白になった。
 世界が旋回して時間が止まったかと思った。

 ゴクリ、と喉が鳴る。

 我に帰った僕は、ニャン太さんから口を離すと大きく咽せた。

 ベッドに突っ伏せれば、類さんがその上に倒れてきた。

「ヤバイ……イキ過ぎてクラクラする……」

 彼はそう呟くと僕の耳朶と項を甘噛みした。
 くすぐったさに身体を捩って仰向けになれば、奪うように口付けられる。

「ん……」

「……苦い」

 と、類さんが眉根を寄せた。

「当たり前でしょ」と、ニャン太さん。

「ごめんね、飲んじゃったよね」

「平気ですよ」

 申し訳なさそうにする彼に微笑めば、ニャン太さんはティッシュで僕の鼻下を拭ってくれた。
 それから下着を引っ張り上げ、ゴロリと僕の隣に横になる。

「なんか……こんな汗だくになってセックスしたの久々かも。……このまま寝ちゃいたい」

「止めてくれ。匂いがとんでもないことになる」

 類さんが、外したゴムを結んでゴミ箱に放る。

「だよねー」

 ニャン太さんはクスクス笑って、うんと伸びをした。

「類ちゃん、お風呂入って着替えておいでよ」

「いや、先に伝のことキレイにしてやって。俺は先にこっちの後片付けしとくから」

「片付けなら僕も手伝います。だから……その……」

 もう少しだけ、3人でいたい。

 言外にそう告げる。
 すると彼は一瞬目を見開いてから、困ったように眉根を下げた。

「ごめんな、伝。……すぐに後片付けしねぇとガビガビになるから」

 と、濡れたシーツを示して言う。
 僕ははたとしてベッドを見下ろし、あたふたと頭を下げた。

「す、すみません……!」

 こんなに汚しておいて、更に甘えようとするなんて僕はどうかしている。
 というかお風呂入る前に、掃除を手伝うべきなんじゃないか。

「あはは。謝るのはボクらの方だから。ついついデンデンに無茶させちゃった」

「僕は大丈夫です。それより先に掃除しましょう」

 ベッドから降りた僕はへにゃりと床に座り込んだ。

「え、あれ……っ?」

「あんだけして腰抜けねぇ方がおかしいよ」

 類さんが苦笑をこぼす。
 なんとかして立ち上がろうとしていると、ニャン太さんに軽々と抱きかかえられた。

「じゃあ、お風呂入ってくるね」

「おう」

「ま、待ってください、僕、このまま浴室まで運ばれるんですか!?」

「いちいち着て脱いでって面倒でしょー」

「いやいやいやっ!」

 僕はじたばた暴れた。

 ニャン太さんはまだいい。パンツを穿いている。でも砂袋みたいに抱えられた僕は全裸だ。
 ソウさんとか帝人さんに鉢合わせたら……

「大丈夫だよ。ふたりとももう寝てるから」

 ニャン太さんは先回りして微笑むと、ペチリと僕のお尻を叩いた。

「でも、あんまり暴れてうるさくすると、起きてきちゃうかも」

「……」

 大人しくした僕に、類さんが噴き出す。

 僕は心の中で強く祈りながら、ニャン太さんにしがみつき、部屋を後にした。

「……いつか類ちゃんと一緒にお風呂入れるといいね」

 身体をキレイにして、僕は言葉少なにニャン太さんとゆっくりお風呂に浸かった。
 それから3人で、僕のベッドで眠った。
 かなり狭かったけど、もう慣れたものだ。


――翌日。  結局、事の顛末はコータくんさん自身からニャン太さんに漏れた。
 平謝りしてくるニャン太さんと類さんに、僕は顔を真っ赤にしつつも、全然イヤじゃなかったと素直に告げた。
 まあ、新たな自分の発見に戸惑ったりはしたけれど……

 ちなみに、その夜、コータくんさんが僕らのマンションを訪れた。

「マジでさーせんしたぁっ!」

 彼はだいぶニャン太さんに絞られたみたいで、大理石の床に額を擦り付け謝る彼は、半べそをかいていた。




step.18「紙と水」おしまい

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