傘とボディランゲージ(3)
唇が腫れるほどの、長く、深い口付け……
息が上がる頃、類さんは僕に跨るようにして胸に手を伸ばしてきた。
「あぅっ……」
乳輪のフチを、指先で何度もなぞられる。
その触れるか触れないかのタッチに、中心がどんどん固く痼っていく。
「はぁ、はぁ……あっ……」
「伝は感じやすいんだな。ココ、まだ触ってもないのに……摘んでっておねだりしてる」
指先の描く円が段々と狭まって、時折、乳首を掠めた。
その度に、ゾクゾクと背に快感が走って腰が浮く。
乳頭に触れる回数が増えていき、くるおしいほど期待が高まっていく。
お腹の奥がぎゅううっと切なさを訴える頃、狙いすましたかのように乳首を摘まれた。
「はひっ……!」
執拗に引っ張られ、押し込められ、コヨリを捻るようにクリクリと弄り倒される。
口元に腕を押し付け必死で声を抑えようとすれば、類さんが不満げに鼻を鳴らした。
「なんで声、我慢すんの」
「だ、って、気持ち悪い……」
「そんなわけないだろ」
「ひあっ、ぁっ!」
さっきよりも強い刺激に僕は身体をくねらせた。
「俺は聞きたいよ。あんたの感じてる声……」
声を我慢すればするほど、激しく指先に翻弄される。
その強過ぎる刺激は苦しいほどだ。
僕はおずおずと口元から手を退かし、か細く喘いだ。
少しでも楽になりたい一心だった。
「んぁうっ……」
けれど我慢を止めた途端、自分でも驚くほど艶めかしい声が出た。
ハッと我に返って、また快楽にうっとりして、また正気を取り戻して……を繰り返す。
せっかく借りた真新しい下着は先走りで濡れ、中で膨らんだ屹立は今にも弾けそうだ。
「んう、うぅ! ……類さん……もう……もう僕……」
「中も弄って欲しい?」
僕は恥ずかしさに泣きそうになりながら、頷いた。
「いい子だ。じゃあ下着脱いで」
いそいそと言われた通りにすれば、類さんはベッドの上の方へ手を伸ばした。
パチリと音がしてベッドライトが淡く点灯し、部屋がぼんやりと明るくなる。
続いて、彼はプラスチックの容器を手に取った。たぶん、ローションだ。
「次は四つん這いになって……怖がんなくていいよ。オレが全部やってやるから。たくさん解してやる」
彼はローションを手の中で温めながらそう言った。
「は……はい……」
僕は恐る恐る四つん這いになる。
ヌルついた液体がお尻に塗り込められ、続いて指がゆっくりと挿入された。
「んっ……」
「伝のココ……凄く可愛い色してる。もしかして初めて?」
「す、すみません……」
「なんで謝るんだよ」
類さんが苦笑を噛み殺す。
「でも……そっか、初めてか。なら、とびきり気持ちよくしてやらねぇとな」
中に挿入された指が増えたのか圧迫感が強まった。
「ふ、くぅっ……ん、ぁ……」
「ココでしかイケなくなるくらい、トロトロに蕩してやる」
グリ、と中の指が何かを探るように動く。
やがて、一点を刺激された瞬間、ジワリと何とも言えない心地良さが広がった。
「あっ……!?」
「伝のイイトコ、見つけた」
「や、類さん、そこはっ……」
指の動きに合わせて穴口が搾るのを感じる。
意識が一点に集中し、ガクガクと膝が震えはじめる。
自分で弄った時とは比べようもない心地良さに、僕は恐怖すら覚えた。
「やっぱ、あんた感度いいよ」
「はっ、ぁっ、んぅあっ」
「このまま、後ろでイク感覚覚えようか」
「う……後ろで……っ?」
「そ。1時間でも2時間でも気持ちよくなれる、魔法の感覚だよ」
異物感を覚えたのは初めだけだった。
類さんの指は的確に僕の身体を開発していった。
「そうそう……そのまま、リラックスして……」
「あ、はぁ、んくっ……ぃ、あ……類さ……そこ、ぁ、気持ちいい……っ」
枕に顔を突っ伏せ、僕はされるがままだった。
初めは、類さんにお尻を見せつける体勢がとても恥ずかしかったのに、気がつけば何の抵抗もなく、小波のような快感に溺れている。
何度も目の前で星が散った。
飲み下せなかった唾液が枕にシミを作る。
「深く息吸え、伝……そう、そのタイミングだ……そのまま――」
「ひぅんっ……!」
指をグゥッと押し込まれると、自然と身体が跳ねた。
「上手、上手。またイケたな」
それからゆっくり、時間をかけて、類さんは僕の身体を奥まで暴いていった。
何度も何度もローションで濡らし、根気よく指を出し入れして、中でバラバラと動かしたりして……
「さっきからイキっぱなしなの、わかるか?」
「は、はいぃ……」
こんな快感、知らない。プラグなんて比べ物にならない。
頭が沸騰して、フワフワしている。クラゲになったみたいだ。
好きな人に触れられることが、こんなにも気持ちいいだなんて考えたこともなかった。
指先まで幸せが染みていくような……
身体を重ねたら、どうなってしまうのだろう?
もっと奥まで欲しい。
指じゃなくて、類さんが欲しい。
「伝……そろそろ限界……中、挿れたい……」
切なげな掠れた声が耳に届く。
「きて、ください……」
朦朧とする意識の中で答えれば僕は仰向けに寝転がされた。
類さんは下着を脱ぎ捨てると、サイドチェストからゴムを取り出す。次いで、口で封を切った。
彼は手慣れた様子でそれを隆起した欲望に被せると、僕に覆いかぶさってくる。
細身だけど引き締まった身体が迫った。
鼻先に、爽やかな汗が香る……
「類さん……」
ローションで濡れた場所を何度か熱い先端が行き来し、やがてグチュゥッと濡れた音が立った。
指とは比べようもない質量に、息が引きつる。彼が中へと押し入ってきたのだ。
「ん……キツ……」
けれど、たくさん解して貰ったお陰で痛みは少しもなかった。
それどころか、圧迫感に甘い疼きすら感じた。
類さんは苦しげに眉根を寄せると、僕を抱きしめた。
「痛くねぇ?」
「へっ……平気、です……」
類さんは動かない。
そっと僕の髪を撫でたり、頬にキスをしてきたりする。
次第にもどかしくなってきて、僕は彼の耳に唇を寄せた。
「あの、類さん……」
「なに?」
「類さんは、ちゃんと気持ちいいですか……? 僕だけ気持ちよくなってるなんてこと――」
「俺も凄く気持ちいいよ。……滅茶苦茶に動きたいの、必死で我慢してる」
「どうして我慢なんて……動いてくださいよ……」
「ダーメ。初めてなんだ。馴染むまで待たねぇとケガするだろ」
十分解してもらったし、今だって少しの抵抗もなく繋がっているというのに、彼は頑として動いてくれない。
僕はくるおしいもどかしさに襲われた。
それこそが類さんの狙いなんじゃないかと思うくらいに。
「類さ……お願い……です……動いて……僕、僕、もう……変に、なっちゃう……から……」
腰に足を巻きつけ、僕は彼に額を押し付ける。
穴口が呼応するように、キュンキュン震えるのを感じる。
「よしよし。もう少しだけな」
「そんな……」
前髪をかき上げられて、ちゅ、ちゅ、と額やこめかみにキスをされた。
堪えきれず、僕は類さんの頬を両手で包み込み唇を塞ぐ。
「んっ……」
拙いながらも、必死で舌を伸ばした。
類さんも応えてくれる。
舌を何度も擦り合わせていると、次第に彼の腰が動き始めた。
「あっ……! あっ、あぁっ、んぁっ……!」
まだ足りない。
もっと激しく突き上げられたい――そんな僕の気持ちを読み取ったように、ズンッと最奥を抉られる。
「んぁああっ……!」
視界が極彩色に染まって旋回した。
「あー! あっ、あぁっあっ……!」
「はぁ、はぁ、ヤバ……絡みついてくる……っ」
「類さっ、ぁ、いい、きもちっ、いっ……っ! そこ、そこ、もっと……ぁ、イク、イク、イッちゃ……ぁ……!」
「いいよ。イケよ……何度だって気持ちよくしてやるから……っ!」
「んぁっ、あああ……っ!」
背が反り、爪先がギュッと丸まる。
意識が弾け飛んで、更なる快感に呼び起こされる。
「もう少し激しくするぞ……」
「ふ、ぁ……ひっ、んぐぅっ……!」
僕の両足を抱え直すと、類さんは先ほどとは比べられない激しさで抽送を繰り返した。
「あーっ、あっ、あぁ、ま、待っへ……そこ、はっ、ん、ふぁんっ!」
指で弄られた時も思ったが……彼はとてつもなく正確だった。
突き上げる場所も、タイミングも、緩急の付け方も……経験のない僕では比べる対象がないが、とにかく彼は上手で、僕の理性も羞恥心も粉々に砕かれた。
陰茎の根本から込み上げる快感が腹の方へと突き抜けていく。
抵抗できない絶頂が何度も何度も続き、僕は前後不覚に陥る。
「類さん……ど、しよ……気持ちいいの、止まらない……」
「俺も……我慢してねぇと、すぐ出ちまう……伝の中……あったかくて……はぁ、気持ち良い……っ」
薄暗い中でもわかるくらい、類さんの顔は赤く染まっている。
僕に欲情して、腰を跳ねさせている。
その姿に泣きたいほど胸が打ち震えた。
「好きだよ、伝……」
「僕も……ぁ、んンッ、類さんの、ことっ……!」
僕は類さんの背に手を回し、縋り付くように爪を立てた。
唾液を啜り、啜られ、全てを晒し合い、汗まみれになって求め合う。
情熱的に。貪欲に。――ふたつの身体が溶け合っていく。