バカと恋わずらい(6)
「ほ、本気ですか……?」
恐る恐る類さんを見上げれば、彼は優しく僕の髪を撫でた。
「うん。本気」
僕は目線を彷徨わせる。
部屋の明かりがついたままで素肌を晒す今ですら恥ずかしいというのに、その上、自分でするのを見せるだなんて。
試されている。
……宣言通りだ。
知れず、僕は喉を鳴らした。
彼のためなら何だってできるという気持ちにウソはない。
ただ、勇気はいる。心の準備が必要だ。
僕は身体を起こした。
髪に触れていた彼の手に頬を寄せ目を閉じる。
深呼吸。
それから類さんに口付けると、彼を組み敷いた。
「……嫌わないでくださいね」
震える声を振り絞り、おずおずと彼に跨がる。
頭がクラクラした。だって、こんなの……僕はヘンタイだ。
好きな人に全裸で跨がって、自慰行為を見せつけるなんて。
「なんで嫌うだなんて思うんだよ。頼んだのは俺の方だろ」
「……でも、普通はこんなことしないでしょう?」
「だから試すことになる」
類さんの手が僕の手を取り、中心に導く。
僕はおずおずと熱を握りしめた。吐息が震える。
「ほら、始めて」
「は、い……」
ゆっくり手を動かした。
「んっ……」
根本から先端まで余すことなく扱き上げる。
類さんの目の前で、僕は自分を慰める。
頭が沸騰して酷く現実味がない。
「いつもは動画とか見てしてんの?」
僕は弱々しく首を左右に振った。
「じゃあ、何オカズにしてんの」
一瞬、言葉に詰まって手が止まる。
すると、すかさず類さんが僕の手を包み込み上下に動かした。
彼は答えを待っている。
僕は観念して呻くように言った。
「お……思い、出して、です……」
手の速度が次第に上がっていく。
「思い出して? 何を?」
「る……類さんと……したことっ……」
「……例えば?」
「ぁっ、はあ……っ」
次第に後ろが切なく疼き出して、身体が強ばった。
少しお尻をズラせば、類さんの固く育った熱が触れて息を飲む。
「俺としたどんなことを考えて……自分でしてんの?」
「ッ……それ、は…………」
限界が近付いてくる。
でも出すなら後ろでイキたい。
扱く動きを弱めたいと思ったけれど、類さんはそれを許してはくれなかった。
先走りが竿を伝い、グチュグチュと卑猥な音を立て始める。
「伝。教えて……?」
僕は彼に折り重なるように身体を倒すと彼の耳朶に唇を寄せた。
お尻を後ろにズラして押し付けながら、逡巡しつつ口を開いた。
「お……お尻の、奥っ……グリグリされながら、……前扱かれたこと、とか……」
息継ぎしながら、彼の首筋に唇を押し当てる。
「キスしながら……苦しいくらいイカされ続けた、こと……とか……思い、出してっ……」
「連続でイクのはイヤなんじゃねぇの……? 泣いて、止めてってしがみついてきたろ?」
類さんの手がお尻に回り、つ、と尾てい骨の辺りをくすぐる。
僕は小さく首を振った。
「…………ホントは、好き、です。求められてる気がして……わけ、わかんなくなる感覚も……」
「……そっか」
言葉にするとズクンと身体が反応した。
耳の奥から、心臓の鼓動がうるさいくらい聞こえてくる。
「る、類さん……い、イキたいです……」
彼のスウェットシャツが汚れてしまうとか、ひとりで弄ってイクだなんて恥ずかしいだとか。
そういう理性的な考えはもう頭の中にはなく。
前を握っていた手を後ろに向ければ、穴口に指を這わせる前に掴まれた。
「ぁ……手、離して……お尻、弄りたい……っ」
「……仰向けに寝転がって」
「え……っ?」
「あんたの妄想叶えてやる。……奥、グリグリされたいんだろ?」
頬を包まれ、唇を奪われた。
されるがまま舌を絡め、ゴロリと横になる。
「足抱えて」
僕を組み敷き、類さんが囁く。
その通りにすれば「いい子だ」と言って、彼はベッド下の引き出しからゴムを取り出した。
ズボンを引き下ろしゴムを付ける彼を、僕は浅い呼吸を繰り返して待つ。
「お待たせ」
太股に手がかけられたかと思うと、グウッと押し潰されるようにされた。
べちゃりとローションをかけられ、傘張った先端が穴口の上を滑る。
そして――
「んぐっ……!」
先端が潜り込んできて、ゆっくりと中を押し拡げられる。
二つ折りされるような体勢で、僕は彼を受け入れた。
「苦しくねぇ?」
「だ、大丈夫れす……」
心地よい圧迫感にうっとりする。
つま先がピクピクと跳ねる。
彼はしばらく、こめかみや鼻先、額にキスをするだけで動かなかった。
ゆっくりと中が馴染んでいく。
呼吸に合わせて肉道が収縮するのを感じた頃、彼は身体を起こした。
「……伝。動くぞ」
パンッ! と、肌と肌がぶつかる乾いた音が部屋に響き渡る。かと思えば、怒涛の掘削が始まった。
「ひあっ、あぁっ、あっ、あっ!」」
目の前が真っ白になる。快楽のスイッチを容赦なくこねくり回される。
「あーっ、あっ、ぁっ……!」
お腹の奥で花火でも上がっているかのような、深くて重い衝撃。
ズブズブジュボジュボと、卑猥な水音が耳の直ぐ近くでした。
ひと突きされる度に神経回路がスパークし、全身の毛穴が開いて汗が噴き上がる。
「いっ、イク、イッちゃ……」
「もう?」
「ご、ごめんなさ、ごめんなさいっ……」
僕は「ごめんなさい」と繰り返しながら、迫り上がってくる快感に陥落した。
「~~~~ッッッ!」
目が裏返るような快感が脳天を突き抜けていく。
つ、つ、と噴き上がった自分の白濁が口の端や頬に飛び散って、独特な香りが鼻先をくすぐった。
「イッちゃったな……」
中の蠢きを味わうように類さんが動きを止める。
それから婉然と微笑むと、僕の顔に付着した汚れを指でなぞった。
「すげぇ飛んだ。顔、ベタベタ……」
覆い被さってきたかと思うと、彼はそれを舐め取った。
「だ……ダメ、ですよ……そんなの、汚い……」
「汚くねぇよ。ってか、伝だって前に俺の飲んだろ?」
「それは、だって……好きな人の、ですから……」
「俺も同じ」
至近距離で優しく目を細める彼に胸がいっぱいになった。
好きが溢れて苦しい。
彼は僕の頬に何度も舌を這わせてから、ちゅっと軽く音を立てて唇に吸い付いてきた。
続いて忍び込んできた舌が、ゆっくりと歯列をなぞっていく。
ほんのりと苦味が口中に広がった。
でも、それはずっとしてたくなるキスだった。
「たくさんイこうな」
キスの合間に、彼は囁いた。
「息の仕方も忘れるくらい……気持ち良くしてやるから」
腰の動きが再開する。
ほどなくして、僕はまたイッた。いや……イッたような気がする。
頭がフワフワしていて、よくわからない。
僕は気が付けば泣いて悶えて、バカみたいに「好きです」と繰り返した。
類さんは、ベッドが悲鳴を上げるくらい僕を激しく揺さぶりながら、かわいいよ、と呟いた。
汗まみれで鼻水も出てたし、そんなことは絶対にないと思うんだけど……
何度か体勢を変える中で、彼は僕の身体に……背中にお腹、鎖骨、それから太股にたくさんのキスマークを刻んだ。
僕も同じようにしたかったけれど、彼は結局シャツを脱がなかったから、仕方なく手首にキスをして我慢をした。
類さんは僕の好きを試したいと言った。
でも、それを感じたのは初めだけだ。
後はただただ淫らに甘やかされ、僕は荒波のような夜に溺れた。