ファミリア・ラプソディア

腰痛とDIY(2)

* * *

 ニャン太さんに車を回して貰って、僕らは少し離れたところにあるホームセンターへとやってきた。店内は家族連れで賑わっていて、販売員が明るい声で新規商品の宣伝をしている。

「楽しいですよね、ホームセンターって」

「そうだね~、ワクワクするよね~。普段は見ないような家電売ってたりするし」

 そう頷いたニャン太さんの手には、メロンソーダの入ったプラコップ。販売員さんから、ちゃっかり貰ってきたらしい。

「家電は見ねぇぞ。どーせ使わない無駄なもん買うんだから」

「折りたたみソーラーパネルも、焼き芋メーカーもバリバリ現役ですー」

 子供みたいに唇を尖らせるニャン太さんに、類さんは肩を竦めた。

「……まあ、いいや。ひとまずカーテン選ぼう」

 館内案内を眺める。
 カーテン売り場は2階みたいだ。

 向かった先は客足もそれほど多くなく、僕らは膨大な数のカーテンをゆっくり見て回ることが出来た。

「伝は何色が好きなんだっけ?」

「青ですかね」

「青か~。あ、向こうに青系のカーテンまとまってるね。行ってみよう」

 予想以上に青系統のカーテンは多かった。

「デンデンに合う柄は……」

「扉開けて正面に窓だろ……」

 カーテンに拘りがない僕からしたら、どれも同じに見えた。
 でも、ふたりは真剣にひとつひとつを手に取って悩んでくれる。

「これとかどう? 北欧っぽくてオシャレだと思うんだけど」

 ニャン太さんが選んでくれたのは、紺を基調にした花柄のカーテンだった。
 彩度の低い水色や白、緑の大きめの花がプリントされている。

「花柄ってな……可愛過ぎるだろ。伝にはもっと落ち着いた――こういうのが似合うって」

 類さんが手にしたのは、藍色の薄いカーテンだ。染め物のようなまばらな濃淡が目に涼しい。

「それはシンプル過ぎるでしょ」

「お前のは乙女ちっく過ぎる」

 ふたりの口の端がひくりと震える。
 一触即発の空気に、僕は自分で手にしていたカーテンをそっと元の位置に戻した。

「あ、あの、僕は――」

 僕は口を引き結んだ。
 外から見えなければ何でもいいです、とは口にできない雰囲気だ。

 ふたりはじりじりと距離を詰め、額がくっつきそうな近くで睨み合う。

「それだと日差しがダイレクトに入ってきちゃうじゃん? 夏は暑いし、冬は見た目も寒いし」

「そもそも窓に断熱フィルム貼ってあるから、遮光は気にする必要ねぇ。冬になったら衣替えすればいいだろ」

「こっちの方が可愛くて和むの!」

「それはお前の好み」

 むぅ、とニャン太さんが唸る。
 どっちを選んでも角が立ちそうだ。かといって、全く別のを選ぶのも違う気がする。
 うーん……帝人さんだったら、どうやってふたりを止めるだろう?
 そんなことを考えていると、ニャン太さんがくるりと僕の方を向いた。

「デンデンはどっちの方がスキ!?」

「え?」

「こっちのが、あんたの好みに近いだろ?」

「あ、いや、その……」

 帝人さん、助けて。
 僕はあたふたとふたつのカーテンを見比べる。
 どっちでもいい。……とは、口が裂けても言えない。ふたりがせっかく一生懸命選んでくれたのだ。

「ふ、ふたつとも凄くステキだと思います」

 あいまいに笑って、視線を逸らす。
 ……沈黙。もちろんふたりが納得なんてするはずもなく、続きを待っている。

「な……なので…………両方じゃ、ダメですか」

 なんとか搾り出した言葉は、それだった。
 ふたりが顔を見合わせる。

「両方って……」

 ……まあ、ダメですよね。
 というか、2種類も買ってどうするつもりなんだろう。
 優柔不断もここに極まれり、だ。改めて僕は選択が苦手なのだと思い知る。

 嫌われたらイヤだな。
 ああ、でも、ふたりがケンカするよりはマシなのか……?

「両方って、どうするの?」

「衣替えするってことか?」

「た、例えば、その……左右別々でもいいかなって」

 ビクビク応えると、ふたりはフッと噴き出した。

「その発想はなかった。新しいわ」

「デンデンって、めちゃくちゃ柔軟だよね。……まあ、そうじゃないとボクらと暮らしたりしないわけだけど」

「じゃ、ふたつとも買っちまおう」

 類さんが店員さんに声をかける。
 僕は幅や長さなどを記していたメモを慌ててポケットから取り出した。

「意外と合いそうなのが笑える」

 ふたつを見比べて、類さんはしみじみとそう言った。
 そんなわけで、僕の部屋のカーテンは2種類に決定したのだった。

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