ファミリア・ラプソディア

5つのグラスとおやすみのキス(3)

* * *

「……やっぱ、男3人は無理があるんじゃねぇか」

 類さんの呆れたような声が部屋に落ちる。

「全然平気だよー。こうやって、くっついてれば」

 明るい応えと共に、ニャン太さんがグイグイと身体を寄せてくる。

 ダブルベッドはすし詰め状態だ。
 しかも並びは、何故か僕が真ん中。

「平気じゃねぇ。狭い……俺、身体半分ベッドから落ちてんだけど」

「なんかさ、なんかさ、こういうのって修学旅行っぽくてワクワクするねっ!?」

「……聞いてねぇし」

 溜息が落ちる。
 類さんは身体を横に倒すと頬杖をついた。

「ってか、修学旅行でこんなくっつくかよ。どうでもいいヤローと密着するとか、考えるだけでゾッとする」

「あー……それもそうだね」

 スンッと声のトーンを落として、ニャン太さんは真っ直ぐ仰向けになった。
 が、それも短い間だけで、またすぐコチラを向いた。

「でもさ、たまにはいいじゃん。今度、5人でゴロゴロしよーよ」

「このスペースの何処に後ふたり入れるんだよ」

「そうじゃなくて。リビングのテーブルどかして布団敷くの!」

「もう布団は捨てた」

「そうだっけ? じゃあ買おう! そして並べてみんなで寝よう!」

「なんでそんなに寝たいんだ……」

「そんなの親交を深めるために決まってるじゃん。同じ布団で寝た仲って言うし」

「同じ釜の飯を食べた仲のノリで言われてもな」

「似たようなもんでしょ?」

「全然。いかがわしいだけ」

 ニャン太さんがむぅ、と唸る。
 次いで唇を一文字に引き結ぶ僕の方を不思議そうに見た。

「……ってか、デンデン。さっきから黙ってるけど、どうしたの?」

「ど、どうもしていませんが……?」

 変にどもる僕に、彼はますます不審げにする。

『アイツ激しいぞ?』

 類さんの冗談が、まだ頭の中でこだましている。

 ニャン太さんに「その気」はないし、今の雰囲気だって健全そのものだというのに、僕はもしもを心配している。
 いや、正確にはもしもを考えた自分のふしだらさが恥ずかしいというか、何というか。

「もしかして緊張してる? でも、なんで?」

 鋭い指摘に口の端がヒクつく。
 右隣で類さんが忍び笑いをこぼした。

「……類ちゃん。何したの?」

 僕に乗っかって、彼は反対側の類さんに訊いた。

「何もしてねぇよ」

「気になるんだけど」

 改めて僕を見下ろしてきたニャン太さんから逃げるように、目線を泳がす。

 すると彼は突然ベッドのライトをつけた。

「……っ」

「デンデン、顔真っ赤だよ? どうして……」

 更に問を重ねようとしたニャン太さんが、きょとんとする。それから声を上げた。

「あーっ! そういうこと!?」

「そ、そういうこととは、どう――」

「3人でエッチなことすると思ってたんだ!?」

 食い気味でズバリと言い当てられた。
 そんなに僕の心情は読み取りやすいんですか。そうですか。……もうやだ。

 僕は顔を両手で覆った。
 ニャン太さんがブハッと噴き出した。

「あはっ、あははっ……そんなにボク、節操なしに見える?」

「…………すみません」

 そんなことを本気で考えてごめんなさい。

「そりゃ、ボクはデンデンのこと気に入ってるし、もっと仲良くなりたいとは思うけど、エッチするのはまた別でしょー」

 ひとしきり笑ってから、ニャン太さんは言った。

「そ、そうですよね……」

「うんうん。今はね」

……今は?

「でも、そっかー。意識してくれてたんだー。嬉しいなあ」

 顔を覆っていた手を退かされる。
 かと思うと、ニャン太さんが覆いかぶさるようにして、顔を覗き込んできた。

「あ、の……ニャン太さ……?」

 彼は柔らかな髪をかき上げて、目を細めた。
 まとう雰囲気が一変して、ギクリとしてしまう。

「試しにチューしてみよっか?」

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