父と息子 side:帝人(1)
俺がソウのケガの真実を知ってから、数日が経った。
そして俺は悩んだ末……協力を求めるため、家の近くのファミレスでニャン太に全てを打ち明けた。
「つまり、類ちゃんのお父さんが……ソウちゃんのケガの原因だったってこと……?」
神妙な顔付きで問うニャン太に、俺は小さく頷いた。
彼はテーブルの上で組んだ手に目線を落とした。
「確かに、類ちゃん……体育だけじゃなくて、健康診断の時なんかも休んでたもんね」
その手は、白く震えている。
次いでニャン太は深く溜息をついた。
「……悔しいよ。ソウちゃんのこともだけど、類ちゃんのことにも気付けなかった自分が」
「……俺もだよ」
俺はアイスコーヒーをひと口飲んでから、窓の外へ目を向けた。
ちょうど、通りに手を繋いで歩く子供とその母親だろうほのぼのとした姿があって、俺は避けるように視線をニャン太に戻す。
「病院とか行ったら、類ちゃんのお父さん治ったりしないのかな?」
「時間はかかるだろうけど適切な治療を受ければね。でも……類がいたら治るのは難しいと思う」
「どういうこと?」
「……ニャン太は共依存って言葉を知ってる?」
「う、うん。聞いたことくらいは」
「俺はね、類とお父さんはその共依存の関係にあるんじゃないかって思うんだ。共依存って言葉は、もともとはアルコール依存症患者とその家族の関係性から生まれたものなんだけど……」
俺は本で読んだ共依存についてをニャン太に軽く説明した。
共依存――世話をする者が、世話をされる患者に依存し、世話をされる方は依存されることに存在価値を見出す、歪な関係性。
「類は自分を犠牲にすることで父親を支えてると思っているみたいだけど、彼自身がアルコール依存症を加速させている可能性があるんだ」
「そんなことって……」
ニャン太が息を飲む。
俺は姿勢を正すと真っ直ぐ彼を見据えて口を開いた。
「ソウのことで、類は自分を責めてる。これから彼は、今まで以上に誰とも親しくならないようにするだろう。そうすると何が起こるか……わかる?」
ふるふると首を左右に振るニャン太に、俺は続けた。
「類とお父さんは孤立する。類は誰にも相談しないまま、ますます疲弊していって……最悪の場合、心中、なんてことも……考えられる」
「し、心中!?」
真っ青な顔で声を裏返らせる。
「そうならないためにも、俺は……類のこと、お父さんと距離を取るようにって説得するつもりだ。類はまだ学生だし、物理的に離れることは難しいかもしれない。けど、精神的な距離だけなら可能だと思うんだ」
「そう、だよね……」
「だからニャン太、一緒に説得してくれないか。俺はさ……類には笑っていて欲しいんだよ」
告げれば、不安げに揺れていたニャン太の瞳に力強い光が宿る。
彼は真っ直ぐ俺を見返すと、深く頷いた。
「もちろんだよ。ボクに出来ることならなんでもする。類ちゃんは……大事な友達だから」
「……ありがとう、心強いよ」
俺たちはその後、どんな風に類を説得するのか話し合った。
そうして翌日の昼休み。
類を連れて、俺たちは屋上へ向かった。