火事と背中(6)
低く穏やかな声音が僕の鼓膜を震わせる。
沸騰してぐちゃぐちゃにこんがらがっていた感情が優しく紐解かれていく。
僕は何度か荒い呼吸を吐き出してから、そっと彼の頬を撫でた。
許しを請うように鼻先に口付け、彼の両足を抱えてぎこちなく動き始める。
「ん……ふっ……は、ぁ……」
彼の吐息が鼻先を掠めた。
ああ、類さんの香りだ。いつもよりも近くて、飲み込まれてるみたいな感じがする。
息を吸う度に意識がとろけていくみたいだった。
「は、すげ……必死……かわいいよ、伝……」
うなじをくすぐられる。
「はぁっ、はぁ……っ……、類さん……つらく、ないですか……?」
「全然。すげーきもちいいーよ。……意外とタチもいけんじゃん、とか思ってるくらい」
彼は余裕綽々の笑みを浮かべた。
僕は悔しくて、唇を塞ぐ。舌を伸ばして、がむしゃらに口中を貪る。
「ふ、ぅ……んくっ……」
ふたつの呼吸が混ざり合う。
僕は一心不乱に腰を振った……が、情けないことに、それは長くは続かなかった。
セックスはスポーツって、誰から聞いたんだっけ?
息が上がり、彼の足を持ち上げる腕がプルプルしている。
本能的に跳ねる腰はとっくに限界を超えていた。
額から流れた汗がぽたりと落ちる。
類さんは僕の前髪をかき上げると、よしよしと頭を撫でた。
「後ろからしてみるか。前からより寝バックのが動きやすいから」
「う……すみません」
「なんで謝るんだよ。自分のやりやすい体勢探すの大事だぞ」
項垂れて腰を引いた僕に、彼はケラケラ笑うとゴロリとうつ伏せになる。
「仕切り直しだ、伝。ほら、おいで」
言って、彼は腰を持ち上げた。
僕は返事もそこそこに覆い被さった。
類さんを背中から抱きしめながら穴口を探る。
何度も違う場所を突いてしまう僕のソコを、彼の手が導いてくれる。
「ん……っ」
無事潜り込んだ中は、前でした時よりもずっとキツく締まっている気がした。
類さんは何かを堪えるように、シーツを握り締めている。
もしかしたら、彼は後ろからするのが好きなんだろうか……と考えて、ニャン太さんに陶然と揺すぶられる類さんの姿を思い出した。
あの時もバックだったっけ。
「ふ……ぅ、あっ……!」
突き上げると、甘やかな吐息をこぼして彼は背中をしならせた。
この体勢なら……類さんのことを、イかせられるかもしれない。 僕の中で、何かに火がつく。
強く彼を抱きしめて、僕は腰を振った。 彼の言う通りこの体勢はとても動きやすかった。 さっきまでどうしようもない程ぎこちなかった動きが、スムーズになったのが自分でもわかる。
そうすると、ますます類さんの中を……熱くうねる粘膜を強く感じた。
「類さん……っ」
僕は彼の耳わ舐めた。耳穴に舌を伸ばし、耳朶を甘くはみ、首筋にキスをし噛みついた。 背中にキスをしたいと思った。ルームウェアが邪魔だ。
「……伝。手、握って」
服を脱がそうとした時、類さんが囁いた。
「は、はい」
僕は彼のシーツを握り締める両手に手を重ねた。 彼は指を絡めるようにして握り返してくる。
「名前呼んで」
甘えるように彼は続けた。
「……類さん」
「うん……」
耳元で囁けば、彼は心地良さそうに頷いた。 愛おしさに胸が震え、否応なしに腰遣いが激しくなってしまう。
「あっ……!」
と、ある一点を突き上げた時、鼻にかかる甘い声が耳に届いた。
ここ……ここが、類さんのいいところだろうか。
僕はその少し固い部分に狙いを定めて、夢中で彼を揺さぶった。
脳裏に過るのは、ニャン太さんと類さんと3人でホテルで過ごした夜のことだ。 ニャン太さんに乱されて、彼は陶然と、切なげに表情をとろかせていた。
僕でも、彼のように……類さんのことを気持ち良くできるかもしれない。 そうしたら……
『類さん、ここスキなんですね……?』
『バカッ……ぁっ……そこばっかりっ……!』
『可愛いです……中、凄いビクビクしてますよ……』
イカせて、快感の波が覚めやらぬ間に更に激しく揺さぶって、
『も、ムリッ……伝、伝っ、おかしくなる、から、ぁっ……!』
『いいじゃないですか……いつも僕にしてることでしょう……?』
泣いて、よがらせて、ぐずぐずに蕩かせて――
『やだ、ぁ、伝、伝っ……イク、イクイク……あ……あぁぁ……っ!』
『可愛い……可愛いですよ、類さん……類さん――っ!』
「伝?」
「……」
動きを止めた僕に、類さんが訝しげにした。 額から落ちる僕の汗が、ぽたり、ぽたりと彼のウェアに吸い込まれていく。
「………………すみません、イキました」
僕は呻くように言った。
「え!?」
「すみませんんんん……っ!」
振り返ろうとした彼の項に顔を埋めるようにする。 彼の中で僕の愚息が心地良さそうに震えていた。自分でもドン引くほどめちゃくちゃ出た。
「お、おう……なんだよ、どうした?」
ぐりぐり頭を押しつける僕に、類さんが戸惑っている。 まさか、頭の中で繰り広げた妄想で射精してしましたなんて言えない。死にたい。今すぐ消えてなくなりたい。
「もう、僕ムリです……挿れる方はムリです……」
泣けてきた。
「いや、そんな落ち込むことじゃないだろ。俺、もうちょっとでイケたし」
類さんの気遣いが身に染みる。 むしろ「この早漏!」と詰って貰った方がマシだった気がする。
スンスンと鼻を鳴らしていると、溜息がひとつ落ちた。
類さんは僕の下から這い出ると、ぽってりと膨らんだゴムを外してくれた。
「……ったく、仕方ねぇなあ」
先端を縛って、ポイッとゴミ箱に放る。 続いて、彼は新しいゴムの封を切った。
「る、類さん……?」
「お手本見せてやるから、しっかり学べよ?」
手慣れた様子でそれを自身の屹立に被せると、僕のお尻にローションを塗りたくる。
「ふぁっ……ぁ、お尻、今弄ったらっ……!」
「わかってるよ。指じゃ物足りねぇんだろ」
「ちがっ、そうじゃなくてっ……」
彼は問答無用で身体を捻る僕の片方のくるぶしを掴んで抱え上げた。
「伝、お勉強の時間だ」
「んぐっ……!」
組み木を嵌めるように身体が重なり、最奥を一息に貫かれる。 その瞬間、目の前に星が散った。もどかしさを一片たりとも残さず、意識を刈り取られた。
「ひぅ、ぁ……! や、ぁ、類さ……イッ、イキました、イッた、イッたからっ……」
「うん……すげぇ、中ビクビクしてる……っ」
イッてる側から更に高みへ放られる。 こんなの勉強どころじゃない。むしろバカになる。さっき得た貴重な経験に基づく諸々が全て真っ白に塗り潰されてしまう。
「あっ、あぁっ、あっ……や、それっ……くるしっ……ダメ、ですっ……それ、ひっ、んぁ、いじ、わる……ぅっ……!」
怒濤の突き入れに、あられもない声が漏れた。
「意地悪されるの、好きだろ?」
「う、うぅ……う、好き……」
「素直で宜しい」
優しい微笑みとは裏腹に抽送の激しさは増していく。 四肢の先まで電流のような愉悦が貫き、僕はだらしなく唾液をこぼして泣いて乱れた。
妄想の中で放った自分のセリフは、更なる語彙力でもって全て類さんに奪われた。僕はすっかり勉強なんて諦めて、荒々しい快楽の波に溺れたのだった。