火事と背中(5)
シャワーを浴びて戻ると、すかさず類さんに唇を塞がれた。
「ん……っ」
もつれ合うようにふたりでベッドに倒れ込む。
触れるだけの口付けを2度。
額をくっつけて、ついばむように。続いて、じゃれ合うように舌を絡ませる。
甘やかなものが胸に広がって、うっとりとすれば、類さんがふと問いかけてきた。
「……なあ。伝ってさ、タチしたことあんの?」
「え、な、なんですか、急に……」
覗き込んでくる眼差しから目を逸らす。
「あるわけないじゃないですか。……キスしたのも、類さんが初めてなのに……」
僕はボソボソと呟いた。
「そっか」
類さんがはにかむ。
それからいつものように僕を組み敷いた。
「じゃあさ――」
熱い手が、すでに反応している下腹部をズボンの上から弄る。
彼は意味深に口の端を持ち上げると続けた。
「こっちの初めても俺が貰っちまおうかな」
「え……えっ!?」
思わず声が裏返る。
彼はきょとんとして目を瞬いた。
「なんだよ。イヤ?」
「い、イヤとかではなく、そ、そ、それって……つまり……?」
「うん、伝が挿れんの」
そう言うや否や、類さんは自分のズボンを脱ぎ捨て僕のも引っ張り下ろす。
「ま、待ってくださいよ。心の準備が……」
「大丈夫、大丈夫。尻に突っ込まれるより楽だから」
ケラケラ笑って、彼は枕元にあったゴムの封を切った。
「楽とかそういう問題じゃないです! 普通って言ったじゃないですか……!」
「普通だろ。フツーのセックス」
彼は僕の隆起した欲望にそれを被せると、いつの間に用意していたローションを手に取る。
「そうですけど……そうなんですけど……っ」
確かに、オモチャを使ったりするわけではないし「普通」と言えば「普通」なんだろうけど……でも、挿れる挿れられるが逆転するって普通か? 普通なのか?
戸惑い身体を強張らせる僕には構わず、彼は跨がってきた。
「それとも……伝は俺のこと抱きたいと思ったことねぇの?」
少し前の僕なら「ない」と応えていたと思う。ずっと自分はネコだと思っていたからだ。
でも……ニャン太さんに抱かれる類さんを見て僕の既成概念は崩れていた。
もしも僕が、彼にあのとろけた表情をさせることができるのなら?
彼の耳朶に可愛いですと囁いて、いつも彼にされてるみたいに……類さんを、めちゃくちゃに乱すことが出来るのだとしたら?
考えるだけでズクンと身体の奥が震えた。
「……り、ます」
震える唇が言葉を噤む。
類さんが小首を傾げる。
僕は吸い寄せられるように両手で彼の腰を掴んだ。
「あ……あります。……あなたを抱きたいと思ったこと」
「……だろ?」
類さんは何もかも見透かしたように嫣然と微笑んで唇を舐めた。
ああ、この人は何もかもお見通しだ。
きっと隠し事なんて、ひとつだって出来やしない。
こういう時、僕はたまらなく嬉しくなるのだ。彼の心と繋がっている気がして……
類さんは僕のソコを手で扱きながら、逆の手で後ろの準備をする。
やがて、ゆっくりと腰を下ろしてきた。
「ん……」
ゴム越しに、敏感な先端が熱い部分に触れた。
グチュと水音がたった。
焦らされながら、僕のソレは火傷しそうなほど熱い彼の中に埋まっていく。
「――奪っちゃった」
先端が行き止まりに到達すると、冗談めかした呟きが落ちた。
頬を上気させた類さんに見下ろされて、甘い吐息がこぼれる。
「……どうだ? 初めて突っ込んだ感想」
「あ、温かいです……」
「それだけ?」
類さんが上下に身体を動かし始めて、ベッドが軋んだ音を立てた。
「ん、る、類さっ……そんな、動いたら……っ」
「悪い、痛かったか?」
「ちが……」
「じゃあ、イキそう?」
脈動する粘膜が絞り取るみたいに収縮して、繋がってる部分からとろけてしまいそうだった。
僕は躊躇いがちに頷く。
彼は愛おしげに鼻を鳴らした。
「俺、あんたのそういうウソつかないとこ、めちゃくちゃ好きだよ」
「ぅあっ……!」
腰遣いが激しさを増す。
短い間隔でぶつかる最奥に、敏感な先端を舐め転がされる。
「身体の反応も、表情も……すげぇ素直で、たまんねぇ」
甘い吐息と共に、唇を奪われた。
僕の頬を指先でくすぐりながら、彼は悪戯っ子のような顔で「上見てみ?」と促す。
天井の鏡に映る自分は、彼に抱かれているみたいにだらしなく蕩けた表情で、喘いでいた。だからこそ、いつもよりずっと恥ずかしくて、僕は腕で顔を覆った。
「……イケよ、伝。いつもみたいに可愛い声上げてさ」
そんなセリフとともに、顔を覆った腕を退けられる。
ちょっと悔しかった。だって、抱いているのは僕なのに。
「ん、んんっ、類さ……ぁ、は、げしっ……っ」
でも……ああ、そうか。
挿れる挿れられるが逆転したって、何も変わっていないのだ。
僕はやっぱり類さんに抱かれている。甘く優しく翻弄されている。
「そうそう、腰、ちゃんと動かして……」
類さんの挑発的な姿は蠱惑的だった。
全身の血が沸騰して、凶暴な快楽神経を問答無用で煽られる。茹だるような快感に、今にも流されてしまいそうだ。
僕は痛いくらいに唇を噛み締めて、彼の腕を引いた。
「お、どうした……?」
力強く抱きしめる。
それから、がむしゃらになって彼の唇を貪った。
「ん、んんっ……はっ、伝…………」
繋がったまま、僕は彼を胸に抱いたまま反転した。
類さんがとてもスマートに導いてくれたお陰で、僕はすんなりと正常位の体勢にシフトできていた。
ドッドッドッドッと耳の奥で心臓が跳ねている。
ふぅふぅと唇から荒い呼吸が漏れ出る。
落ち着け。
落ち着けよ。
いつも類さんは僕にどうしてくれてる?
優しく蕩かすように……ああ、ヤバイ、熱い柔らかい……類さんの中、ヌプヌプして……
自分本位に身体は動いてしまう。
「ぅ……っ」
類さんの唇から低い呻き声がこぼれて、僕は慌てて腰を引いた。
「す、すみません、類さん」
彼を気持ち良くしたいのに、何もかもうまくいかない。知れず本能に飲まれて、自分だけが気持ち良くなってしまっている。
類さんを気持ち良くしたいのに。
いつも彼がしてくれるように、優しく、とろかすように愛したいのに。
と、類さんの手が僕の髪に触れた。
「……遠慮してねぇで、まずは動いてみ?」
彼は僕の顔からズレた眼鏡を取り上げた。
それをすぐ横のチェストに置いてから、そっと僕の背に手を回す。
「全部、受け止めてやるから」