ホラーとヤモリ(2)
* * *
ローテーブルには、コンソメとハニーバターの2種類のポテトチップスが広げられ、それぞれアイスクリームを手にとってソファに座った。
コーナーソファの角には類さん。彼の左に僕、その更に横にニャン太さん。類さんの右隣にはソウさんが座り、その横で帝人さんが優雅に足を組む。
いつもの席順だ。
暗くした部屋の中央で、テレビが青白く輝く。
コーラを注いだグラスの中で、氷がカラリと鳴った。
ホラー映画の内容は、民俗学者が好奇心で行った呪いの儀式であの世との道が開き、とんでもない数の霊がこの世になだれ込んでくる、といったものだ。
除霊の方法などはなくて、とにかく不条理に登場人物たちが死んでいく。
類さんが「ヤバイ怖い」という感想以外覚えてないと言っていた理由はすぐにわかった。物語の流れがちょっと抽象的で難しかったのだ。だけどそんなことを気にさせないほど、怖かった。特にメインの幽霊の描写が独特で、一度見たら忘れられないくらいもの凄く気持ち悪かった。
来るぞ、来るぞ、と思わせつつも、なかなか幽霊は出てこない。それが不安を煽り、ふいの音でギクリと身体が強張る。その度に、
「うわぁぁぁッッッ!!」
ニャン太さんが悲鳴を上げて、僕に抱きついてくる。
「うっ……」
絞め上げるようなキツさに呻き声がもれた。
ほ、骨が……ミシミシ鳴っている……
「ニャン太、伝のこと締めてるっ!」
と、類さんが慌てて僕からニャン太さんを離してくれるけど、
「あっ、ごめ……ぎゃーーーーーーっ!!!」
「うぐっ……」
「伝っ!?」
……クライマックスに近付くにつれて、ニャン太さんの熱い抱擁は増えていく。
こんな風にして、2時間の映画は思っていたよりもすぐに終わった。
「本当にごめんね、デンデン……ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった……」
「だ、大丈夫ですよ……」
しょんぼりと項垂れるニャン太さんに僕は微笑んで見せる。
彼が抱きついてきた衝撃の方が大きくて、怖がりな僕でも最後まで観ることができた。
「ニャン太は自分の怪力自覚しような」
「うん……」
「だけどさ、本当に怖かったね。ニャン太が叫んじゃう気持ちもわかるよ」
帝人さんが取りなすように言う。
「だ、だよね、だよね。すっごく怖かったよね!?」
それに、ニャン太さんがパッと顔を上げた。
「あの幽霊の動き、ヤバかったよ。うまく言葉に出来ないけど、クネクネ動くの凄い気持ち悪かった。夢に見そう♪」
と、満面の笑みを浮かべる。
「あれは印象に残るね……」
「確かに……」
僕もしみじみと頷いた。
しばらく脳裏から離れなさそうだ。
そんな話をしていると、ソウさんが隣の類さんの肩口に頭をグリグリと押しつけた。
「……ソウ? どした?」
「……」
押し黙ったまま俯く。その手は類さんの服の裾を握りしめている。
「あの……もしかして、ソウさん……ホラー苦手だったのでは……?」
口を開くと、類さんニャン太さん帝人さんが目をぱちくりさせた。
「マジかよ」
「あー……今までホラーって観たことなかったから……苦手かどうか知らなかったよ」
「観たくなかったら言って良かったんだよ、ソウ」
「マジそれな」
類さんが頬を指先でひっかく。
それから、ソウさんの頭にそっと手を置いた。
「ごめん、気付かなくて」
「……怖かったわけじゃない」
ポツリとソウさん。
「じゃあ、どうしたんだよ」
「別に……」
彼は再び類さんの肩口に頭を押しつけた。
そんな彼の前髪を類さんはかき上げ、慰めるように額へ唇を押しつける。
次いで、彼は頬をソウさんに寄せた。
映画のワンシーンみたいな、恋人同士の姿だった。
心臓が小さく跳ねた。でも、それがどんな感情に寄るものかはハッキリしない。
内心、戸惑っているとソウさんがソファから立ち上がった。
「……類」
名前を呼んで、彼は類さんの服の裾を引っ張る。
「なんだよ」
「俺は風呂に入るから」
「から?」
ちょいちょい、と再び服を引く。どうやら「ついてこい」という意味のようだ。
「……やっぱお前、苦手なんじゃねぇか」
類さんは大仰に溜息をつくと、苦笑とともに腰を持ち上げた。