ファミリア・ラプソディア

step.27* おまけ(2)

「その手錠、ステンレス製だから。壊そうとしたら、ベッドの方が壊れるぞ。お前、お下がりで欲しいって言ってたよなぁ?」

 類さんが言う。

「ほ、放置プレイって、ウソでしょ? ねぇ、類ちゃ……」

 応える代わりに、彼は上掛けをニャン太さんの顔まで被せた。

「ちょっとっ!?」

 と同時に、類さんは僕とニャン太さんの間に身体を滑り込ませ、僕のガチガチに固く反り立つ屹立を下着の上からそっと撫でた。

「あぅっ、類さ――」

「可哀想に。ここ、こんなパンパンにして我慢させられてたのか? ニャン太は酷い奴だな」

 細く滑らかな指先が忍び込んできて、ソレを握りしめる。優しく始まった上下運動に吐息が跳ねた。

 冷たい手に熱が伝播していく。
 ドクドクと耳の奥で心臓が鳴った。

「イけよ、伝。1度、楽になっちまえ」

 一定のリズムで攻め立てられ爪先が丸まった。
 時折、袋の辺りを爪先で引っ掻くように抓まれ、衝動が愉悦の階段を勢いよく駆け上っていく。

「ぃ、イッちゃ……あ、ぅ、はっ、類さっ、類さんっ……!」

「こっちも可愛がってやる」

 ちゅぱっと胸に吸い付かれ、頭の中が真っ白に爆ぜた。

「~~~~っっ!」

 屹立の根本にわだかまっていた熱液が迸り勢いよく類さんの手を濡らす。
 肩で息をしていると、胸をしゃぶっていた唇が離れ、類さんが優しげに目を細めた。

「思いっきりイけたな。……とろけた顔、すげぇ可愛いよ」

「そんな……見ないでくださいよ……」

 両手で顔を覆う。
 劣情は発散されたというのにますます昂ぶり、僕は落ち着きなく足をモジモジさせた。
 身体はこれ以上の快感を知ってしまっているのだ。

「声だけとか、生殺しにも程があるよ!?」

 しばらく息を潜めていてくれたニャン太さんが、隣の上掛けの山の中から悲鳴を上げた。
 類さんは優しく僕の頬にキスをすると、足をジタバタさせる彼に流し目を向けた。

「なら、自分で弄れば?」

「手が使えないんだけど!?」

「あ~あ、そっか。そりゃあ……ご愁傷さま」

 ねっとりと嫌みったらしく彼は続ける。

「類ちゃんっ!」

 ニャン太さんの泣きそうな声。
 彼は身体を捩って暴れたが、ベッドのことを気にしているのだろう、いつもの思い切りの良さはない。
 類さんはそんな彼を無視して、僕の鎖骨を撫でた。

「うつ伏せになって、伝。奥でイかしてやるから」

「類ちゃんー! ごめんってばー!」

「ま、待って下さい。ニャン太さんが――」

「気にしなくていいよ」

「でも、あの、ニャン太さん類さんのこと心配してただけなんですよ」

 今だって結局、ニャン太さんの思惑通り類さんはベッドにいるわけだし。
 それなのに彼だけ放置するなんて、可哀想だ。

「……ったく。あんたは本当、優しいな」

 類さんは呆れたように嘆息すると、前髪を掻き上げた。次いで、ニャン太さんの上に被せていた上掛けを引っ張って、ベッドの下に落とす。

 パッと顔を輝かせたニャン太さん。
 てっきり類さんは手錠を外してあげるのかと思えば……

「伝。ニャン太の上で四つん這いになって」

「え、こ、こうですか……?」

「そう。そのまま……」

 背後に彼の気配が迫る。
 ゴムの封を開ける音に続き、お尻の間を熱く固いものが上下した。
 それはゆっくりと狙いを定め、僕の中へと潜り込んでくる。

「んんっ……!」

 ニャン太さんの大きな目と目が合った。

「伝が気持ち良くなってるとこくらいは見せてやるよ」

 そっと髪を撫でられた。
 かと思えば、パンっと肌と肌がぶつかる音が部屋に響き、目の前に星が散る。

「あっ、あっ、あぁっ……!」

 激しい抽送が始まり、引き結んでいた唇から甘ったるい嬌声と唾液が零れ落ちた。
 ぼやけた視界の中で、ニャン太さんの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

「ヤバイ……チンチ×この上なくイライラしてきた……」

 彼は真顔でそんなことを言った。

 僕は彼に縋り付き喘いだ。
 身体の中で渦巻く羞恥心と被虐心に炎が灯り、腹の奥底で快感の花火がたて続けに上がった。

「ん、ふぁ、ァ……類さ……奥っ、気持ちいっ……」

「うん……さっきからイキっぱなしなのわかるよ……」

 ゴリゴリと最奥を暴かれ、最も弱い部分を抉られる。
 意識は1点に収束し、膝がガクガクと震えた。

 すぐ近くに、半開きになったニャン太さんの唇があった。
 陶然と眺めていると赤い舌がチロリと唇を舐めた。
 吸い寄せられるように顔が近づき、気がつけば吐息が重なっていた。

「ん、んんっ、ん……っ」

「おい、ニャン太……誰が伝にキスしていいっつった?」

「ん、口寂しそうなんだから……ンふぁっ、いいでしょ……」

 呼吸も声も、巧みに動き回る舌に絡め取られる。
 パジャマのズボンに屹立が擦れた。
 ニャン太さんのソコは隆々と反り立ち声高に主張している。

 少しすると、ニャン太さんが唇を離して胸を喘がせた。

「もう限界……おかしくなりそう。挿れたい」

「……伝。ニャン太の服、脱がしてやって」

「服じゃなくて、手錠取ってってば!」

「ダメ」

「類ちゃんっっ!」

 僕はおずおずとニャン太さんのシャツのボタンを外し、ズボンを脱がせた。
 染みができるくらい先走りで濡れた下着を引っ張り降ろす。

 せめても、と、僕はソコに愚息を擦りつけるようにした。

「はぅ」とニャン太さんが息を飲む。

「ここ……擦り合わせたら少しは……その、気持ちいいかと……」

「気持ちいいけど、いいけどもっ……余計、もどかしくなったというか……っ」

 彼は苦しげに眉根を寄せて、腰を揺らした。
 確かに、手で扱くこともできないし出すには刺激が弱いだろう。

 僕はゆっくりと身体をズラし、彼の腰を抱いた。

「ふぁっ、デンデン……っ!?」

 それから苦しそうに震える屹立を口に含む。
 唾液を絡めるようにして、類さんの動きに合わせて顔を上下させた。

 頭の片隅で、自分は今とんでもなく淫らなことをしていると思う。
 でも、1度踏み越えてしまったハードルは遥か下方で、足先に引っかかりもしない。

「伝はニャン太のこと甘やかしすぎ」

「あっ……!」

 ひときわ深く突き上げられて、喉奥までニャン太さんの熱を飲み込む。
 苦しさにえずきながら舌を絡めれば、ピクンと彼の腰が跳ねた。
 口の中に、微かな苦味が広がっていく。

「う、ぅ……出そう……デンデン、出していい……?」

「いいれふよ……」

 じゅるじゅるとはしたない音を立てて吸う。
 抱いた腰の筋肉が強張る気配。
 口の中を満たすソレが震えて、一回りも大きくなった。

「あと10秒、イかなかったら手錠外してやるよ」

 類さんが口を開いたのは、今にもニャン太さんが果てそうな時だった。

「はっ……はぁっ!? 今、それ言うのズルくない……っ!?」

 ニャン太さんが唇を噛み締める。
 え、えげつない……彼がもう射精の準備に入っていたのに気付いていないわけがないのに。

 少しでもニャン太さんを楽にして上げたくて、咥え込む深さを浅くする。
 と、類さんが僕のお尻を抱き直し、それから的確な角度で腰を突き出してきた。

「はふぁっ……あっ、あぁっ、あっ……!」

 堪えがたい衝動が爆発した。

 咄嗟にニャン太さんの剛直から口を離そうとする。
 が、彼は僕に足を絡めてきてそれを制止した。

「やだ、やめないで。そのまま舐めて…………」

「んぶっ……ん、ぁ……」

 喉奥を傘張る先端がゴンゴンと突く。
 限界まで被虐心を煽られ、愛おしさが爆発し、僕は身体を震わせた。

 膨らみきった情欲が一気に弾け、ストンと意識が落ちる。

 ぎゅううっと穴口が収縮して、類さんと隙間無く繋がった。
 彼の熱がそれを力強く押し返してきて、中で激しく跳ねる。

「くっ……」

 類さんが小さく呻く。
 痙攣する粘膜を味わうようにしばらく腰を打ち付け、やがて彼は動きを止めて僕に倒れ込んできた。

「はぁ……伝、気持ち良かったよ……」

「ぷはっ」と、僕は息継ぎするみたいにニャン太さんの熱から口を離す。

「……なに満足してるの? ボク、まだイッてないけど」

 声に、僕のうなじにキスを落としていた類さんがピタリと止まった。

「……マジかよ」

「す、すみません、僕が下手だったせいで……」

「違うよ! デンデンの口の中、めちゃくちゃ気持ち良かったよ。でもね、死力を尽くして耐えたんだよ、ボク」

「ぜってーイッたと思ったのに」

 類さんが悔しそうに舌打ちする。
 それから枕の下から手錠の鍵を取り出し、ニャン太さんに投げた。

「……伝、ニャン太とする?」

 それから彼はちゅ、と僕の右耳を優しくはんで囁いた。

「え……っ? ま、待ってください、僕、今、イッたばかりで――」

 まだ余韻も冷めないうちに、限界まで我慢したニャン太さんを受け入れるのはちょっと躊躇われる。

 類さんに恥骨をくすぐられ、身体が跳ねた。
 すると、手錠を外したニャン太さんが僕の下から抜け出した。

「なに逃げようとしてんの、類ちゃん?」

 ぐっと背中に体重がかかる。
 ニャン太さんが、類さんにのしかかったようだ。

「な、なんのことかな?」と、とぼけたように類さん。
 ニャン太さんはフッフッフーと不気味な笑みを浮かべると、ベッドヘッドからローションのチューブを手に取った。

「散々じらしてくれたんだから、覚悟は出来てるよね」

 僕の背中で類さんが息を飲む。

「おまっ、どんだけローション入れて――」

「解してるヨユー無いんだもん」

「ぅぐっ」

 更に体重がかかる。
 ついで、ベッドが激しく軋み始めた。
 粘着質な水音が立ち、僕の中で落ち着きかかっていた類さんの熱が再び硬度を増す。

「デンデン、お尻締めて」

「は、はい……っ」

「ちょ、ぁ、うっ、待っ……」

 類さんが僕の背中に縋り付く。

「伝、力抜けっ……マジで、これ、やばっ、あ――ぐ、っ、奥やめっ……ニャン太っ、マジで、これ……ぁ、あ、あっ、あぁっ……!?」

 次いで、彼は身体を強張らせた。
 お尻の中にじわりと生温かなものが染みる感触……ゴムから溢れ出たのだろうそれを思うと、耳まで顔が熱くなるのを感じた。

「……あれれ~? もうイッちゃったの? さっきイッたばかりなのに?」

「はぁ、はぁ、はぁっ……クソ……っ」

「デンデン、ごめんね。ちょっと体勢変えるね」そんな柔らかな声音の断りの後、上から体重がどく。

 横を向けば、正常位の体位でニャン太さんが類さんの両足を抱えたところだった。
 続けざまに抽送が始まり、ぐちゅぐちゅと物凄い水音が立つ。

「あっ、んぐっ、ふ、ぁ、あっ、あぁっ、あっ……」

 聞いたことのない、類さんの淫らな嬌声。
 頬を赤らめ、目に涙をいっぱい溜めてよがる彼に、僕はたまらなくゾクゾクした。

「類さん、かわいい……」

 キスをする。

「ん、んんっ、んっ」

 めちゃくちゃに舌を繰り、唾液をすする。

「たくさんイッて、ぐっすり寝ようね」

「いいっ、もう寝れるっ、寝れるからっ……あっ……!」

 僕らは交互に戯れた。

 その日は、加虐的な快感というか、好きな人を泣かせたい困らせたいという気持ちが、ちょっとだけ分かってしまった夜だった。

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