理想と現実(4)
いつも口で言い負かされてるからか、頼久くんよりも出来ることがあると何故だか嬉しい。
彼は初めての接客業、一方でボクは中学の頃から父さんを手伝っていたから、しばらくはこの優越感に浸れる。……と、思ってたんだけど。
……なんであんな要領いいかな!?
頼久くんは5日と経たずに、キッチンの仕事まで覚えつつあった。
愛想もいいし、気も利くし、おまけに顔もいいしで日に日に彼目当てのお客さんが増えていく。
「ニャン太の友達、めちゃくちゃ優秀だなあ」
キッチンから出てきた父さんが、注文を取る頼久くんを眺めて呟く。
ボクは新規客用の皿や箸のセットを作りながら、気のない返事をした。
「そーですねー」
「もちろんニャン太はニャン太で優秀なとこあるぞ? 俺の自慢の息子だ」
そんな言葉とともに、後ろからわしわしと髪を撫でられる。
「もう! そういう子供扱いやめてってば!」
「やめらんねぇなあ。お前はいつまで経っても俺の子供だから」
腕を振り払い、キッとまなじりを持ち上げるボクを気にすることもなく、父さんは肩を揺らして笑った。
ボクは何事か言おうと言葉を探して、結局大きく溜息を吐く。
「……はあ」
父さんのスキンシップは子供の頃から全く変わらない。高校男児にはかなり恥ずかしいものがある。が、邪険にして父を傷付けるのも本意ではなく、強く拒絶できなくもあった。
と、注文を取り終えた頼久くんがボクらを見てるのに気づいた。
彼は目が合うと、思い出したようにニヤッと口の端を持ち上げる。
顔が赤くなった。
彼のことだ、「ガキみてぇ」だとか思ったに違いない。
「お皿下げに行ってくるよ」
ボクはちょっと不機嫌に言った。
「おう。よろしく」
父は気にする風もなく、キッチンに戻っていった。
* * *
しとしとと雨の日が続く頃、初めての中間考査が近づいてきた。
「蒼悟。さっきの呼び出しなんだった?」
ホームルームの後、数学の担任と廊下に出た汐崎くんに頼久くんが問う。
「小テストの結果で呼び出されてた」
「小テスト?」
自然と彼の机に集まりつつあったボクら3人に、彼は小さく頷いた。
「中間考査の勉強は進んでいるかと訊かれた。赤点取ったら部活動禁止らしい」
「ああ、確かそんなこと言ってたな」
「……困った」
汐崎くんが肩を落とす。
「授業ちゃんと聞いてるならそこまでヤバイこともないと思うけど」
それを励ますように頼久くんが口を開いたが、汐崎くんは押し黙ってしまう。
「蒼悟?」と頼久くん。
と、汐崎くんは少し顔色悪く首を振った。
「俺は……大丈夫じゃない」
「え、っと……何かわからない部分があるの?」
「わからないところがわからない」
帝人の問いに、汐崎くんか溜息をついた。
「それは……」
「重症だな」
帝人の後を、頼久くんが続ける。
「どうにかしてくれ」
「いや、そこはお前が頑張るとこだろ」
「何を頑張ればいいのかわからない」
汐崎くんは言葉を補うように、さっきの授業で戻ってきた小テストの結果を差し出した。
ボクもそんなにいい点数ではなかったけど、彼のはちょっと群を抜いている。
ボクらは顔を見合わせた。
これは……もしかしなくても、ちょっと部活動を続けるのは難しくなるかもしれない。
汐崎くんが不安を覚えるのもわかる。
「だ、大丈夫だよ! 帝人がいるし!」
ボクは彼の不安を晴らすように明るく手を打った。
「え!? ニャン太!?」
「どうして帝人がいると大丈夫なんだ?」
「帝人めちゃくちゃ頭いいんだよ。中学の頃、ずっと1番だったんだ」
焦る帝人には構わず、ボクはちょっと誇らしげに続けた。
「ニャン太、やめて……中学と高校じゃ全然違うから……」
帝人がおろおろと言う。 そんな彼を汐崎くんはキラキラした目で見つめた。
「……汐崎くんも。本当、期待しないで」
「部活に出られなくなるのは困る」
「うん、それはわかってるけど……」
沈黙。
居心地悪そうに顔を背ける帝人を、汐崎くんの眼差しが追う。
やがて無言の圧力に、帝人はガクリと項垂れた。
「やるよ……でも、責任は取れないからね」
「うん」
「あ、ボクも教えて貰いたいかも」
「じゃあ、みんなで勉強会でもするか」
「あ、それいいね! めっちゃ青春っぽい!」
頼久くんの提案に諸手を挙げて賛同する。
そういうわけで、ボクらは中間考査前の1週間は4人で集まって勉強をすることになった。